10歳:「虹色石の瞳を持つ少年(2)」
隠し事がバレる? おいおい、ジョニー、それは本当かい、困っちゃうよ、私は隠し事の塊じゃないか?
いや、誰だよ、ジョニーって……前世でたまに見てた古い料理番組のアシスタントだっけ?
魔術? だとすれば、私の抵抗値を突破できるほど強力な魔術の使い手?
同い年くらいに見えるが……むしろ、魔導か古代帝国のマジックアイテムを警戒した方がいいか。
マジックアイテムだとすれば、こんな子供に持たせておく可能性が低い。となると、【先天性加護】の一種? 該当するようなのあったかな。
さて、変なことがバレる前に逃げるか……。
「待ってくれ!?」
私が逃げ出す雰囲気を悟ったのか、ん?
なんで「逃げるな」じゃなくて「待ってくれ」なんだ?
少年の方を見ると、なんだか必死そうな顔なんだけど……。
「途中からキミのことが分からなくなった。キミはいったい何者なんだ?」
「別に怪しい者じゃない、って言う方が怪しいよね。えっと、…………迷子?」
「ただの迷子なのか? ボクを暗殺しに来た刺客とかではなく?」
「あ、暗殺……?」
物騒な単語が聞こえたよ。うわ、関わりたくないな。
「ふむ、面白い……キミ、ボクと友達になってみないか?」
「なんでっ!?」
「うん? あえて言うなら、キミがボクのことをよく知らないみたいだからか?」
「というか、隠し事ができないとか、そんな相手と一緒にいたいと思う?」
「そのことなら、安心しろ。途中からキミが、何を隠しているかが分からなくなった。
だから、興味深い……なぜ、ボクの能力が通じなくなった? 魔術か? それとも何か特殊な技か?」
「いや、そもそも、キミの能力なんてよく知らないし……急に隠し事が分からなくなったとか、言われても判断に困るよ」
「うん、面白いほどに君の隠し事が分からないな。キミの名前は?」
「え? ユ、リ……っと」
「ユーリ? 本名なのか? 女みたいな名前だな」
「いや、本名じゃないけど。というか、私は女の子なんだけど」
「本名じゃない? つまり、偽名か……面白いな、それ。こう秘密っぽくていい。それじゃあ、ボクのことはフェルと呼んでくれ。
ちなみに、わざわざ女の子だなんて下手な嘘を付かなくてもいいぞ」
「いや、この服は男モノだけど、動きやすいからで……なんなら、脱いで見せようか?」
「え? ほんとに女の子なのか? って、脱ぐな! 分かった、信じる、信じるから!」
ふっ、勝った……って、なんで、私は見ず知らずの少年の前で服を脱ごうとしているのかな。
「キミには羞恥心というものはないのか?」
少年……フェルだっけ? が呆れたような目をしている。
いいじゃないか、別に減るもんじゃないし、脱いで困る歳でもあるまいし。
「と言うか、キミって何歳? なんだか、妙にませてるけど」
「今年で10歳になったな。というか、キミも人のことは言えないと思うが」
「え、嘘、同い年なの? 君って苦労しているでしょ? だから、そんなにませてるんだ、きっと」
「苦労か……まぁ、苦労しているといえばしているな。この能力のせいで、知らなくてもいいことばかり知ってしまう」
「その能力って、結局なんなの?」
「ん? ボクが教えると思うか?」
だよね~。なんか、ノリで答えてくれるかなとか思ったんだけど。
「【夢夜兎の加護】……瞳に映した相手が隠していることを知る魔導だ。
欠点は夜の間にしか効果がないこと。それから能力は無差別に発揮されるため、同時に多くの人を見てしまうとヒドイ眩暈と吐き気を起こす」
「え? 答えてくれるんだ?」
【夢夜兎の加護】、聞き覚えがないけど……〈ドリームナイツラビット〉って霊獣じゃなかったっけ?
うわ、私と同じ【霊獣の加護】持ちってことか!?
「ああ、友達になった記念だと思ってくれ」
「ふ~ん……って、いつのまに友達になったのかな?」
「ボクが友達になってくれ、と言った時に断わらなかったじゃないか」
「君さ……ワガママだって言われるだろう」
「今まで言われたことはないな……面と向かってはだが。
ところで、そろそろ降りてきてくれないか、この体勢で話をしているとちょっと首が疲れる」
「…………」
なんだか、警戒してたのがバカらしい気がする。私はベランダに降りて、掛けていた魔術を解除した。
フェルに近寄って気付いたが、彼は髪だけでなく瞳の色も白っぽく、オパールのように光の加減で色合いが変化していた。