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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
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10歳:「虹色石の瞳を持つ少年(1)」

 

 

 自由意志による単身飛行。

 前世の世界で最もそれに近づけたのは、古典的ではあるがハングライダーだったのではないだろうか。

 

 この世界は違う。魔術と言う名のルール破りの技がある。……いや、魔術がある世界で魔術を使ってやっていることだからルールには従ってはいるのか?

 

 

 ともあれ、私は地上から3キルテ(=約300m)付近を飛んでいた。

 

 姿隠しの魔術も併用しているため、普通の人には気付かれない自信がある。

 この魔術は、過去の実験ではロイズさんの目の前を歩いても一応バレなかった。

 

 一応とつくのは、その時は普通に忍び足で歩いていたため、足元の微かな凹みのせいでバレてしまったからだ。姿が見えていたわけではない。

 

 

 飛行の魔術を初めて使った時はかなり緊張した。

 この世界にいる有翼人種は例外として、普通の人は空を飛べる生き物じゃない。

 

 最初の頃は、大丈夫だと思いながらも僅か1メルチ(=約1m)ほどをフヨフヨと浮いていただけであった。

 それが、今では地上から3キルテ離れた空を飛びながら、のんびりとリラックスしている。飛行することの恐怖も、繰り返せば慣れてしまった。

 

 飛行には慣れたが、この空を飛ぶ爽快感は、何度やっても飽きないくらい気持ちがいい。

 前世ではスカイダイビングのことをなんてマゾな趣味だと思っていたが、ハマる人がいる理由が今なら分かる。

 

 夏で気温が高く、それほど速度を出していないが、寒い時やもっと高速度で飛ぶ時は、防寒や風圧対策の魔術も使う。

 今は少し強めの風が頬に当たるくらいなのが、また気持ちいい。

 

 

 しばらく飛び続けた私は、空中に止まり、浮かびながら寝転がった。

 

 眼下に王都の夜景が広がっている。ポツポツとした明かりは民家の物だろう。

 ところどころで、明かりが強く輝いている場所もある。

 

 貴族街の明かりが集まっている場所では、夜会が行われているのだろうか?

 後2年もすれば、私もデビューをはたすことになるだろう夜の宴は、面倒そうではあるが少し楽しみだ。

 

 それから、商業区画の何ヶ所かが派手に明かりがついている。

 多分……酒場やそういうお店が軒をつらねる盛り場だろう。

 

 

 仰向けになれば、夜空に数多あまたの星が散らばっていた。

 排気ガスや工場の煙の汚されていない澄んだ空気。この世界の夜空は美しいきらめきに満ちている。

 

 空中飛行は、水中を泳ぐのと似ていると思う。あくまで似ているだけで、空には水のような重たさはない。

 水ならばプカプカと浮くが、魔術による座標固定はシッカリしているのでそれほど揺れることはない。

 えーと、布製のハンモックの感覚が近いかもしれない。布製のハンモックが分からないなら、太陽にたっぷり干した羽毛布団に横になったような、そんな感じだ。

 

 さて、十分気分転換になったし、そろそろ戻るか。

 私はゆっくりと高度を落としていく。

 

 

 私が違和感に気付いたのは、屋敷の屋根の高さまで下りてきた時だった。

 

 2階に見覚えのないベランダがある。そもそも、家の形がちょっと変形したような?

 

 ……そんなわけはない。つまるところ、家に向かっていたつもりが、見当違いの場所に下りてきてしまったようだ。

 これはいわゆる迷子だな、はっはっは……しょうがない、探知の魔術を使うか。

 対象は、ジルが分かりやすいかな。

 

 

 

 

「キミは、そこで何をやっているんだ?」

 

 

 は? 声が聞こえてきたベランダの方を見る。

 と、いつからそこにいたのか、最初からいて私が気付いていなかっただけなのか……闇からうっすらと浮かび上がるように立つ、白い影みたいな少年と目があった。

 

 ……姿隠しの魔術はまだ解除していないよな?

 思わず、自分の後ろを振り向くが、わたしの後ろには星以外に誰もいない。

 

 

「なるほど。姿隠しの魔術を使っているのか……残念ながら、それはボクとは特に相性の悪い魔術だな」

 

 

 今、なんて言った!?

 もしかして、こっちの心を……

 

 

「別に心を読んだわけじゃない。キミが隠そうとすることがボクには分かるだけだ」

 

 

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