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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
55/146

10歳:「バーレンシア家の事情(2)」

 

 

 王都に到着してから、5日間が経ち、新しい生活に徐々に慣れてきた。

 

 お父様は新しい職場が忙しいのか、以前よりも帰宅が遅くなったが、晩ご飯までにはきちんと帰宅していた。

 森の中の屋敷で暮らしていた頃と変わりのない日常が過ぎている。

 

 そう、せっかく王都にやってきたというのに、街の探検どころか、門から外に出ることは禁止されていた。

 

 

 お父様は、あの日のお祖父様の発言について、何もなかったかのように振る舞っている。

 私は、その間に分かっている情報を元に推測と現状の整理をしてみた。

 

 まず、あの時の会話から思いつくこと。

 伯父夫婦に何かしらの問題があって子供がいない、もしかするとできないのかもしれない。これが今回の問題の前提だ。

 

 子供がいないとバーレンシア家の直系が途絶えてしまうため、伯父夫婦は養子を迎えると言う手段を取らざるをえない。

 そこへ、傍流に男児が生まれたという話があった。叔母夫婦にとっても直接繋がっていないとはいえ、血を分けた弟の子供だ。家の継承を目的として養子にするとしたら、これほど良い条件はないかもしれない。

 貴族の位について、ちょっと調べてみたがガースェとガーロォでは、待遇も権力も格段に違う。

 

 一例を挙げれば、継承権の有無。

 ガースェだと王国の認可を受けずに個人の意思で後継者を選ぶことができるが、ガーロォの場合は自由に選ぶことができない。

 

 他にも統治権の違いと収税権の有無。

 ガースェには王国から領地を割り振られ、その土地を統治することで、その土地から出る税の何割かを直接収入として得ることができる。

 ガーロォは土地を統治する権利はあるが、税の全てが一度王国のものとなり、王国から俸禄ほうろくという形で収入を得ることになる。もちろん、ガースェでも自分の領地の統治以外に、王国の政務に携わっていれば、王国から俸禄を受け取ることもある。

 

 

 この際、父親の感情とかは無視するとして……いや、分かっている情報からなんとなく推理するに、父親の愛妻家で子煩悩な性格は、あのお祖父様の性格や言動の裏返しなのだろう。

 前世の頃に読んでいた小説や漫画からの知識を含めた上での推理だけど、当たらずとも遠からずって感じだと思う。

 

 まず、どの形であれ、どうすればリックが幸せになれるかが問題だ。

 そこが一番大事であることを忘れちゃいけない。

 

 この話を受けた場合のメリットは、リックの将来が安泰であろうこと。

 ただし、私たちと一緒にいる時間は確実に減るだろう。今でも十分に勉強しているが、ガースェを継ぐとなったら、また別の勉強が必要になるかもしれない。

 伯父夫婦には大事にしてもらえると思う。それにお互いが生きている限り、本気で会おうと思えば、いつでも会えるはずだ。

 

 

「お姉さま、ぼくはよその家の子になるんですか?」

「他所の家と言っても、お父様のお兄様の子供だよ。

 向こうの家の方がお金持ちだから、色々美味しい物を食べれて、好きな本とか買ってもらえるかもね。リックは、どう思う?」

「お父さまやお母さま、お姉さま、リリアと分かれるのはいやです。

 でも、おじさまとおばさま、おばあさまは、きらいじゃありません。

 おじいさまは、……ちょっとこわいです」

 

 

 私は思わずリックの頭を撫でてやる。いや、ほんといい子に育ったな。

 幸い部屋の中には私とリックしかいない。だからこそ、このタイミングで話を切り出したんだろうけど。

 

 

「まず、私はリックがどうしたいのかを一番大事にしようと思ってる。次に、お父様の気持ちかな」

「お父さま……」

 

 

 リックは聡い子だから、食事の時のお父様の言動が気になっているのだろう。

 普段、お父様はめったに声を荒げない人だから、あの夜のことは私の印象にも強く残っている。

 

 

「これだけ言っておくけど、私以外の家族もリックの事が大事だと思っているよ。

 お父様だって、リックが本気でそうしたいと思うなら、迷わずに送り出してくれる。

 分かってるよね?」

「うん……でも、ぼくは、どうしていいのか分からない……」

「ああ、ごめん。今すぐ答える必要はないから、リックが十分悩めるだけの時間は私がどんな手を使ってでも作らせるから、大丈夫だよ。

 そもそも、伯父さん夫婦に子供ができれば、なくなっちゃうような話なんだから。

 リックはそこまで気にしなくたっていいんだよ。また気になることがあれば、私に相談しなさい」

「はい。お姉さま、話を聞いてくれて、ありがとうございます」

 

 

 そう言いながら、照れくさそうな笑顔を見せる。

 私が思わず抱きしめて、可愛がりまくったのは仕方ない行動だと思う。この姉殺しめ。

 

 

 

 

 と、まぁ、リックには心配掛けないようお姉さんぶってみたものの。

 私自身のモヤモヤはスッキリしないわけで……

 

 

「《躯はティニ 見えざるモァームナ 皮をゼェス 纏うテァール》、《風をウィス 駆けるはリァート 空をフィス 舞うロァース 竜の翼ドレイク・ド・フェス》……よしっ」

 

 

 では、ストレス解消にちょっぴり夜遊びへ行ってきます!

 

 

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