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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
50/146

10歳:「森の屋敷との別れ(3)」

 

 

 お父様の所属先が変わり、私たち一家は王都へと引っ越すことになった。

 

 元々そういう話になっていたのか、特に理由は聞いていないし、聞きたいとも思っていない。

 イアンたちと別れるのはちょっと寂しいが、今の私にとって、家族と一緒にいたい気持ちの方が大きかった。 

 

 領主としてお父様の後任には、お父様の従兄弟で私も2度ほど会ったことのあるナシスさんが着くことが決まっている。

 

 ナシスさんは、お父様よりも3歳ほど年下で未婚だが、子供好きのいい人でリックやリリアも懐いていた。

 2度目にきた時など、ウェステッド村の収穫期で村人に混じって麦の収穫を手伝っていた。このエピソードだけでも、気さくな人柄が分かるだろう。

 

 

 

 

「ジルは右から先回りっ、私が左から追い込むから!」

「がうっ!」

 

 

 私の横を走っていたジルが身をひるがえして、右の茂みの中に消える。

 イアンとの最後の稽古の後で朝食が終わり、私はジルと裏の森へ狩りに来ていた。

 

 こうしてジルと森で狩りをするのも珍しいことではない。今追いかけている〈フォレストラビット〉も何度も狩ったことがある。

 

 〈フォレストラビット〉は普通の兎より少し大きいが逃げ足が早く、私では魔術抜きに追いかけることはできない。まぁ、もっと派手に魔術を使えば楽に狩れたりするが、身体的な訓練も兼ねて、今は必要以上に魔術を使っていない

 

 なお、〈フォレストラビット〉の肉は、柔らかく淡白な味で非常に美味しい。

 引越しの前日だが、最後だからと、夕食用のご馳走を狩りに来たのだ。

 

 そう、今回の引越しはイアンたちだけでなく、ジルとの別れも意味していた。

 

 

 「王都にジルを連れて行くことが難しい」と言うのが、お父様とロイズさんの結論だ。例え連れて行ったとしても、屋敷の中から出すことができなくなるらしい。

 それならば、ナシスさんに預けて、私が成長し次第引き取りに来ることにした。

 

 ……私は、未だにジルを“使い魔ファミリアー”にすることができていない。

 最初は魔術を使えば何とかなると思っていたのだが、それらしき成果をあげることができなかった。

 

 いくつかの魔術書を読んだところ、“使い魔との契約”は魔術師の秘技の一つであり、ラシク王国では魔術師組合で認可を受けた魔術師しか“使い魔”を持つことが許可されていないらしい。

 その上、魔術師組合で認可を受けるためには、王国立の学院できちんと魔術を学び卒業する必要があって、学院で魔術を学ぶためには成人(満15歳)になっていないといけなくて……と、何重にも問題が積み上がってしまった。

 

 ジルは普通のオオカミとは違い、寿命は人間よりも長く、それならば、私が正式な魔術師になるまで、一時の間別れて暮らすことにした。

 

 もっとも、家族に隠れてちょくちょく遊びに来る予定だが。

 

 

 そのことを説明した最初のうちはジルもイヤそうな顔をしていたが、何度か説得すると何とか納得してくれたようだ。

 それからは今日まで、できるだけジルと一緒に遊んだり、構ってやるようにしていた。

 

 

 

 

 ガサッと上の方で枝の揺れる音が聞こえ、白銀色の美しい毛並みのジルが飛び降りてきた。〈フォレストラビット〉は、一瞬の虚を突かれて、ジルの体当たりの直撃を食らう。

 

 

「ジル、ナイスッ!」

「がぉんっ!」

 

 

 私の横の大木まで吹き飛ばされた〈フォレストラビット〉の首に、剣を鞘から抜き打ちの一発を放つ。

 その攻撃が致命傷となって〈フォレストラビット〉は、グッタリと動かなくなった。

 

 

『南無、美味しく頂きますから、成仏してください』

 

 

 どこか間違えているかもしれないが、まだ覚えている日本語を使って、兎の冥福を祈る。

 

 私の精神が、まだ男性のものであるように、こういうときには、どちらかといえば日本人だった時の気分が抜け切らないようだ。

 

 手早く〈フォレストラビット〉の処理を行なうと、意気揚々と屋敷へと戻った。

 

 

 

 

 その夜、晩ご飯に食べた野兎のソテーとスープに満足し、私は深い眠りについていた。

 

 私のベッドの中に、こっそりと忍び込んだモノがいたことも気づかずに……。

 

 

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