表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
47/146

10歳:「月明かりの下での密会」

 

 

 今日も夜空でふたつの月が、美しい輝きを放っている。

 小さい月をルナ、大きな月をディナと呼び、それはそのまま双子である月精霊の名前となる。

 

 

 私は高度を調整し、最近すっかり降り慣れてしまったベランダへと着地した。

 そして、飛行と姿隠しの魔術を解除する。

 

 いつもならば、彼の方が先にいて、私のことを待っているのだが……。

 

 カチャリと扉が開いて、雪のような白い髪が特徴的な少年がベランダに現れる。

 その片手に茶器を乗せたお盆を持っていた。

 

 

「もう来てたのか、ユーリ。すまない、待たせてしまったか?」

「いや、丁度今到着した所だよ。それよりもそれは?」

「そうか、それは良かった。ああ、珍しい茶の葉をもらったから、ユーリと一緒に飲もうと思ってな。

 この間、美味しいと言ってくれた菓子も用意しているぞ。だから機嫌を直してくれ」

「別に少し待ったくらいで怒ったりしないよ。そもそも、そういうのを気にする集まりでもないしね。

 ところで、君は私のことを食いしん坊だと思っていないかな?」

「違うのか?」

「一度、フェルとは私のイメージについて、じっくり話し合う必要がありそうだね」

 

 

 今ここにいるのは、ユリアでもないし、フェルネでもない。

 ユーリと呼ばれている私とフェルと呼んでいる彼による2人だけの秘密の会合。

 

 この奇妙な会合も今回で5回目になる。1日置きに開かれているから、フェルと知り合って9日目か。

 それが、もう9日目なのか、まだ9日目なのかは微妙なところだ。

 

 

「だって、ユーリの話題は、今日は初めて何々を食べたとか、屋台で買った何々が意外と美味しかったから始まるじゃないか」

「うっ、最初は無難な話題を選んでるだけだよ」

「そうか? その割には食べ物の話の時は、いつも熱心じゃないか」

「……食べ物を美味しく食べれるのは、幸せなことなんだよ?」

「ぷっ……あははは、まさに食いしん坊の言葉だよ、それは……あははは……」

 

 

 私の言い方がツボにハマったのか、ふてくされる私に遠慮なく笑う。

 その笑顔が、歳相応の10歳の少年のものに見える。

 

 私とは別の意味で、大人にならざるを得なかった少年の笑顔を見て、怒る気持ちにはならず、まぁ、いいかと言う気分になる。

 

 

「それで、そのお茶はご馳走してくれないのかな?」

「くくくっ、まぁ、今淹れるから少し待ってくれ」

 

 

 ヤカンからティーポットにお湯を移し、待つこと2分ほど。フェルがティーポットを傾けて、お互いのカップに琥珀色の液体を注ぐ。

 辺りにお茶の芳香が漂いだす。

 

 

「高そうなお茶だね……」

「さぁ? 値段は気にしたことがないから分からないな。でも、美味しいお茶であることは保証する」

 

 

 飲むように視線で薦められ、一口すする。

 お茶の良い香りをがそのまま口に広がりのどに滑り落ちていく。口の中に変な後味が残るわけでもなく、すっきりとしている。

 

 

「美味しい……」

「そうか良かった。お茶の葉もたくさんもあるから気にせず飲んでくれ」

「さて、一昨日は何の話をしてたっけ?」

「使用人に剣術の使い手がいて、弟子入りをしたと言う話だったな。今日はまず、その稽古内容について話してもらおうか」

「あんまり面白い話でもないと思うけど?」

「ユーリの話なら何でも面白い、話してくれ」

 

 

 大人びていると言っても男の子なのだろう、剣術に憧れがあるようだ。分からなくもない。


 テーブル越しに、光の加減で白いオパールのような色合いを魅せる瞳が私を見つめる。

 

 

 

 

 さて、2巡り(20日)前は、こんなことになるとは思ってもいなかったな…………。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ