シズネ:「ユリアちゃんからのお土産」
「シズネさん、これはプレゼントです。お土産に、持って帰って下さい」
ユリアちゃんがこっそり渡してきたのは、直径が2イルチ位の翡翠の玉だった。
ただ普通の翡翠とは違い、緑に薄いピンク色の層が入っている。そして、あたしの【野兎の加護】が、この石が強い力を放っていることを教えてくれる。
「これは、もしかして……」
「はい、〈宝魔石〉化させた〈花乙女の翡翠〉です。
その石なら、多分、シズネさんと相性がいいはずですから、是非使って下さい」
翡翠やエメラルドといった緑色の〈宝魔石〉は、治癒の魔術と相性がいいと言われているので……医師であるあたしにとっては、この上ないお土産だ。
「川原に落ちている〈花乙女の翡翠〉を探して作ったので、お金はかかっていません。遠慮しないで下さいね?」
まったく、金貨何十枚になるか分からないモノを、すぐそこで拾ったように言うとはね。まぁ、言葉どおりの意味で本当に拾ったんだろうけど。
〈宝魔石〉が作れると言ったとき、物欲しそうにしてしまったあたしの反応に気付いていたんだろうな。
しかし、こんなギリギリまで渡してこなかったのは……
「ビックリしました?」
「ほんの少しだけな」
イタズラが成功した悪餓鬼の笑顔に、あたしまで嬉しくなる。
あの日の告白はとても信じられないものだったが、認めてしまえば、秘密を共有する仲間だ。
見た目と違って子供らしくはないだけで、お茶目だったりお人よしだったりと……一回り年下の友達として考えれば、悪い気もしない。
「ありがたくもらっていくよ。もしユリアちゃんが王都に来るか、またあたしがこっちに来る時に御礼をさせてもらうからね」
「はい、楽しみにしています」
「コーズレイト殿は、婚約者殿と仲良くな」
バーレンシア夫妻とは、既に館の方で挨拶を済ませている。
この村(確かウェステッド村だったか?)まで見送りに来てくれたのはユリアちゃんとコーズレイト殿だ。
ハンスさんは、お世話になった村長さんへ挨拶に行くために、四半刻(30分弱)ほど別行動を取っていた。
「シズネさん、勘弁して下さい」
コーズレイト殿が心底嫌そうな顔をしている。
いやー、ユリアちゃんから豊穣祭の話を聞いた時は開いた口がふさがらなかったが……よくよく考えてみれば、アイラちゃんの見る目を評価してやるべきか。
「半分は冗談だけど、もう半分は本気だよ。あんたほどの男が独り身だったことの方が冗談みたいなもんさ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「けらけら、まぁ、甲斐性を見せるんだね」
バーレンシア夫人も、ユリアちゃんの話の途中から乗り気になっていたしな。今は赤ん坊の面倒にかかりきりだが、それが一段落すれば、コーズレイト殿とアイラちゃんをくっつけるべく暗躍するだろう。
前向きに善処します、とどこぞのお役人みたいな返事をするコーズレイト殿にちょっぴりだけ同情してやる。
それ以上に「さっさと受け入れてしまえばいいのに」と言う気持ちの方が大きい。
「お待たせして、すみません」
「いやいや、それで挨拶回りは終わったのかい?」
「おかげさまで一通りは……あと、お弁当ももらってきました」
別れる前には持っていなかった袋を掲げてみせる。
「それじゃあ、ユリアちゃん、コーズレイト殿、また会おう」
「ユリアちゃん、隊長、お見送りありがとうございました。また遊びに来ます!」
「シズネさん、ハンスさんまたー」
「2人ともお元気で」
滞在したのは2巡り(20日間)と少しか、長いようで短かったな。
バーレンシアの一家とは末永く付き合いたいと思う。長生きしないとな。
さて、王都に帰りますか。