5歳:「豊穣祭と贈る花の色(3)」
今年の祭り会場となったウェステッド村の代表であるライラさんの宣誓の下、豊穣祭は落日と共に滞りなく始まった。
広場は中央に焚かれた祭り火と周辺の篝火によって昼間の如く照らされている。
近隣の村人たちが各々で持ち寄ったご馳走に舌鼓を打つ。
中でも圧巻なのが、老いた小人牛の丸焼きだろう。焚き火で炙って、火が通った部分の肉を鋭利な短剣でそぎ落とし、それに軽く塩を振って、ハーブと一緒に豪快に口に入れる。
脂の乗った肉は祭りの空気も相俟って、生まれ変わってから食べた物の中で2番目に美味しかった。
他にも、各村で作った秘蔵の地酒が惜しげもなく振舞われ、皆の喉を潤す。
女性や子供など、お酒が飲めない人用には木苺や山葡萄などのジュースがちゃんと用意されている。
「ほら、お嬢っ、芋とベーコンのスープだ。熱いから気をつけろよ」
「ユリア、キノコのオムレツがありましたよ。これは好物でしょう?」
「イアンもお父様も、ありがとございます。けど、そろそろお腹イッパイです」
……お父様、お願いだから、イアンと張り合うのは止めて下さい。
祭りの佳境に入り、メインイベントである地の精霊王の祝福の儀式が始まった。
この儀式は、例の成人のお披露目も兼ねている。
祭りの参加者全員が静まり返る中、パチパチと薪の爆ぜる音だけが響き、厳粛な雰囲気を醸し出す。
そこへ緑色のドレスをまとい、美しく化粧を施した1人の少女――アイラさんが、焚き火へと近づき、地の精霊王へ豊穣の祈りを捧げる。
地の精霊王の扮装をした村人が現れ、アイラさんに祝福を与える。
同時に夜空が割れんばかりの拍手が起こった。
オレも父親やロイズさん、ハンスさん、イアンたちと一緒に惜しげのない拍手を贈った。
祝福の儀式の余韻が一段落すると、アイラさんがオレたちの方へ向かってきた。
その手には赤い花が1輪。
思わず横にいるハンスさんの様子を伺うと、ハンスさんもこっちにやってくるアイラさんに気付いたようだ。
心なしか緊張しているようにも見える。
「えと、その、この花を受け取ってくれます、か……」
アイラさんやハンスさんの緊張がオレのほうまで伝わってくる。
そして、アイラさんは、意を決したように花を差し出す。
「…………ロイズ様っ!」
…………えっ?
「「「は……?」」」
その言葉に、近くにいたアイラさん以外の全員の表情が固まる。
というか、一番慌てたのはロイズさんだろう。ほとんど条件反射的に差し出された花を受け取ってしまっていた。
アイラさんが咲き誇る花のような笑顔を浮かべる。
「う、受け取ってくれて、ありがとうございましゅ!!」
あ、噛んだ。……うん、恋する乙女とは良いモノだ。
そういや剣術の稽古をしていた時、裏庭にいたのはハンスさんだけじゃなかったなぁ。
「え? え? なんで俺ぇっ!?」
ロイズさんの絶叫は、様子を見守っていた全員の心の声を代弁していた。
さて、母親には、なんて報告しようか。