5歳:「豊穣祭と贈る花の色(2)」
村に到着すると、あちこちに篝火の準備がされており、広場の中央にはキャンプファイヤーのような大きな焚き火をおこすための薪が積み上げられていた。
「さて、俺はまずライラさんの家に行って、ハンスの様子を見てこようと思うが、お嬢様はどうする?」
「う~ん……」
「ユリア!」
「あ、お父様? 祭りの準備はもう大丈夫なのですか?」
ロイズさんと一緒に行くか、別行動をとるかで悩んでいた所に声をかけられた。
「うん、まぁ大体一段落してね。今は近隣の代表の方と“花贈り”の花を交換していた所さ。
そろそろユリアが到着すると思ってね。様子を見に来た所だったんだよ。ユリアとロイズさんもどうぞ。
それとは別に、ユリアはこれを“花贈り”用に持って行きなさい」
そう言ってオレの右手に赤い花を1輪と黄色と白色の花束を、ロイズさんには黄色い花を1輪渡す。
黄色の花が“日頃の感謝”なら、白色の花は“友への友愛”だ。
うん、渡してくれた花束の中に“確かな愛情”を意味する赤色の花がないのは、わざとですね?
まぁ……贈る相手がいるわけじゃないけどさ。
ちなみに受け取った花は茎の真ん中を一度折るのが作法だ。これは、贈った花なのか贈られた花なのかを見分けるための決まりごとである。
そのため、花を摘む時には茎が折れないように丁寧に扱わなくてはならず、馬での移動中に花を集めておくことは断念していた。
父親が花束を用意してくれなかったら、豊穣祭が始まる前に、花を集めに行く必要があったから助かったんだけど。
結局、村長の家に向かうというロイズさんと一緒に付いていくと言う父親と別れ、オレはいつものメンバーを探すことにした。
「あ、いた」
イアン、サニャちゃん、クータ君、シュリとシュナちゃんの5人は、村の外れでなにやら短い松明みたいなものを作っていた。
「こんにちわ、みんな。もうそろそろこんばんわだけどね。なに作ってるの?」
「こんにちわ、ユリアちゃん」「ゆぅちゃん、こんにちわぁ」
「ゆーゆー」「お嬢様、待っていましたよ」
「よっ。コイツは“包み薪”ってヤツさ。篝火の火力が足りなくなってきたら、これを焼べるんだ。
ところで……そ、その赤い花はどうしたんだ?」
皆の視線が、黄色と白色の花束の中に咲く1輪の赤い花に集まる。
「あ、これは、さっきお父様からもらったやつです。はい、皆にもどうぞ」
正直に話すと、皆の顔が「ああ~」という納得の顔つきになる……父親の親バカっぷりは、この面子にも共通認識のようだ。
花束の中から白色の花を取り出して、皆に1輪ずつ手渡す。シュナちゃんは持っているのが難しそうなんで、シュリに2人分を渡した。
お礼にと、皆も1輪ずつ、私に白色の花を渡してくれる。
「あれ? この花、ちょっと形が違うよ?」
「別に同じ花だけだとつまらないだろ? それだって、白っぽい花なんだから、いいじゃん」
「ふ~ん」
オレが皆に渡した花やイアン以外の皆がくれた花は全部同じ形だったのだが、イアンがオレにくれた花だけ形が違っていた。
「あのねあのね、ゆぅちゃん、その花の色はほとんど白なんだけど、ほんのりピン……あたたっ!?」
「うわっ!? イアン!! クータ君に何してるのっ!?」
オレに何かを伝えようとしてたクータ君の頬をイアンが抓っていた。
「ふんっ」「……うぅ、いたかったぁ」
「イアン、今クータ君が、私に何か言おうとしてたのに」
「内緒だ! クータも喋るんじゃないぞ! だからお嬢は別に気にするな。
それより“包み薪”を作るのを手伝ってくれよ」
「う~ん、いいけど……」
少し釈然としないけど、まぁ、男の子同士の秘密ってヤツか? ちょっと羨ましいなぁ。
そんなオレたちのやり取りをサニャちゃんとシュリは、分かっています的な顔をして眺めていた。