5歳:「ワガママと家族の形(2)」
ダメ。
…………駄目?
それは否定や拒絶を表す単語?
家族と一緒に居たいという願いを受け入れてもらえた、と思った。
この両親ならば、無条件にオレを受け入れてくれると言う願望は、独り善がりな妄想でしかなかったのか?
「ねぇ、ユリィちゃん、こっちに来てくれる?」
「はい……」
母親に手招きされるままに、母親が座っているベッドに近づく。
足元がフワフワとして、あまり現実味がない。
「ユリィちゃん、ほら、見てちょうだい」
母親が示す方を見ると、2人の赤ん坊が柔らかな布にくるまれて静かに眠っていた。
ああ、あの時生まれた子たちか……。
双子だからか、それとも赤ん坊だからか、2人はそっくりだった。
けど、なんていうか一言で言うなら、ブサイク?
髪の毛は変に薄いし、肌が赤っぽいし、全体的にクチャクチャだし。
赤ん坊て、もっとこう、可愛らしいもんだと思ってたんだけど……。
「名前は、リックとリリアよ。ユリィちゃんが、わたしを助けてくれたから、2人とも無事に生まれてきたし、わたしもこの2人に会うことができたの。
すっかり言いそびれちゃったけど、助けてくれてありがとう、ユリィちゃん」
「いえ……私がもっと早くに魔術を使えることを明かしていたら、もっと簡単に助けられたかもしれません」
母親からの感謝が素直に受け取ることができず、顔を俯けてしまう。
「ユリィちゃんは、魔術が使えることを知られたくなかったのよね? わたしには、その理由が思いつかないけど、ユリィちゃんにとっては、きっと大事なことだったんでしょ?
でも、わたしのために、その決め事を破ってくれた。それって、ユリィちゃんの大事にしていたことより、わたしのことを大事に思ってくれたのよね?」
別に、あの時はただ無我夢中で……。そう言おうとして、言葉が止まる。
オレは、確かに自分の秘密と母親の大事を天秤に掛けたのだ。
そして、天秤の皿が母親に傾いただけの話。
それを上手く説明して、母親の言葉を否定することができない。
「それでね。さっきのユリィちゃんの言葉なんだけど……リックくんとリリィちゃんも、ちゃんと入れてあげないとね。
わたしとあの人とユリィちゃん、それからリックくんとリリィちゃんの5人で家族なのよ?」
えっと、それはつまり…………?
「ずっと家族でいるのなんて、当たり前じゃないの。
ユリィちゃんは、わたしが頑張って産んだ子供なんだから」
顔を上げると、いつもと変わらない母親の笑顔があった。
少し童顔で、出産の影響かやつれて見えるけど、綺麗で優しく全てを受け入れてくれる笑顔。
ジワリと、母親の姿が歪む。
「あらあら……ユリィちゃんてば……」
オレの涙を隠すように、母親が身を乗り出して両腕でオレの顔を抱きしめてくれる。
抱きしめる力は強くないのに、オレはその両腕から逃げることはできず。
さっき食べたお粥と同じ甘い香りが、ほのかにオレの鼻をくすぐった。