5歳:「転生者の告白(1)」
朝食が終わり、シズネさんの診察を受けて、問題はないと診断された。
先を歩くシズネさんの後について、両親が待っている寝室へと移動する。
そして、オレは4対8個の眼差しを受け、真っ直ぐ前を見据えて立っていた。
オレ以外の4人の様子を順に確認すると、父親はやや緊張していて、母親はいつも通りのようだが産後で疲労しているのか、ベッドの上で座っている。
ロイズさんは少し戸惑っている感じだ。オレが魔術を使う所を直接見たわけじゃないからだろう。
シズネさんは冷静に事の成り行きを見守ろうとする顔つきをしている。
「お集まり頂きありがとうございます……これから、私が皆さんに内緒にしていた事実を公表したいと思います。
と言いましても、私もうまく説明しきれないと思います。ですので、質問等がありましたら、遠慮なく仰ってください」
オレがまず口上を述べると、部屋の雰囲気が変わる。
父親、ロイズさん、シズネさんの表情が少し鋭くなった。唯一、母親だけがあまり変わらない。
「まず、最初に申しておきますが……私は、ユリア・バーレンシアです。
ケイン・ガーロォ・バーレンシアとマリナ・バーレンシアの間に生まれた第一子であることは間違いありません。
けれど、私は転生者、すなわち、死んでから再び生を受けた者なのです」
「転生? ……それは当たり前のことだと思うんだけど?」
父親がさっそく質問を返してきた。
しかし、さっそく意見に齟齬が出たな。
言われてみれば、この世界では“転生することは常識的な現象”なんだっけ?
確か人が死ぬと大地の下にある冥界に行き、そこで魂の穢れが浄化され、浄化された魂は天界を巡って、再び大地に生まれてくると、信じられている。
魂を浄化される時に、前世の記憶や能力なども一緒に失われる。業みたいなものは残るらしく、前世の輪廻転生の考えにも通じる所がある。
『グロリス・ワールド』でも、キャラクターが死ぬと地の精霊王の立ち絵が現れて、「復活するかどうか」の質問をしてくる。
“YES”を選んでセーブポイントに戻って復活、さもなければ近くのプレイヤーに復活の魔術を使ってもらうまで倒れているかだ。
「簡単に説明するのなら、私は生まれる前からある人物の人格、つまりは記憶や知識、性格を持っていました」
「ん? つまり、ユリアの魂は、以前の生を終えたときに冥界に行っていない、という意味かい?」
「う~ん、少しややこしいのですが、生まれる前の私は、この世界と異なる世界を生きていたと思ってください。
その魂が、ユリアの魂としてお母様のお腹の中に宿ったのです」
そこで質問者がロイズさんに変わった。
「オレは「お嬢様が強力な魔術を使った」と言う話を聞いただけで、まだ少し理解できてないんだが。
確かにお嬢様は幼い頃から大人びていた。本当に魔術が使えるのか? 実際に見せてもらえないか?」
「いいですよ。そうですね……《輝ける六つの灯よ》」
「「「!」」」
“ルーン”を唱えると、右手から6つの小さな光球が生まれ、それが宙に浮かびあがって、私の頭上でくるくると回りだす。まぁ、ただ見栄えがいいだけの明かりの魔術だ。
皆、魔術で生み出された光を注目していたが、ロイズさんが小さく咳払いをすると、皆の視線がオレに戻った。
「…………つまり、お嬢様は、生まれながらにしてカルチュアとは違う世界の老魔術師の人格を持っていた。
なので、魔術を使えるし、大人と同等の知性を持っていると考えればいいのか?」
「あ、老魔術師というのは正しくはありません。
私が死んだ時は20歳の大学生――未熟な見習い学者のような身でしたので……精神的な年齢でいえば、お父様より少し年下かお母様と同じくらいです」
「ちなみに他にどんな魔術が使えるんだ?」
「魔術でできることならば、多分一通りは……ただし、他者を傷つけるような魔術だけは使えません」
「他者を傷つける……攻撃用の魔術が使えないということか? 何故?」
「私がユリアとして生まれたときに得た【一角獣の加護】のせいではないかと思います」
「「!!!?」」
「……一角獣ということは、【霊獣の加護】か? お嬢様は、本当に【霊獣の加護】を持っているのか?」
なんか、魔術を使った時以上に驚かれているんだけど?
「はい、私の知識が合っていればですが……」
「なるほど……さすが〈発動具〉もなしに魔術を行使するだけのことはある、か」
んん? 〈発動具〉って何だ?
「……私から質問してもよいでしょうか?」
「俺や旦那様で答えられることならな」
「【霊獣の加護】って、そんなにすごいものなのですか? それと〈発動具〉とは何でしょうか?」
あれ? キョトンとされたんだけど……もしかして、変なことを聞いちゃった?