5歳:「陽光差す部屋で夢から覚め(1)」
悪夢だと言い切れないような、前世の記憶を追体験する夢を見た。
その割には目覚めがよく、思いのほかスッキリとしている。
「…………朝、かな?」
窓から陽光が差してる。
ここは自分の私室だ。オレは慣れ親しんだベッドに寝ていた。
眠っている間に家から追い出されていた……みたいな事態にはならなかったようだ。
昨夜の記憶はシッカリと残っている……オレは、父親とシズネさんの目の前で魔術を使い、そして気を失った。
身体を起こしたところで、コンコンと扉がノックされ、
「おはようございます。え、あれ? ……シズネさん?」
いつもの様にアイラさんが入ってくるかと思いきや、シズネさんが部屋に入ってきた。
「ああ、目が覚めたのか良かった」
「シズネさん? ……あっ! お母様と赤ん坊はどうなりましたかっ!?」
シズネさんが入ってきた理由よりも、まず確認するべきことはそれだ。
無事なはずだ、という思いの中に、万が一、もしかして、と言う不安な気持ちが少し混じる。
「母子共に3人とも元気だよ。
ユリアちゃんが使った魔術のおかげで……あの時使ったのは、治癒の魔術だよな?」
「はい。えっと、それで……お父様やお母様に話したいことがあるのですが……。
それにシズネさんとロイズさんにも立ち会ってもらいたいと思います」
オレは覚悟を決めていた。その表れとして、普段よりもずっと大人びた口調で応える。
一人称が「私」なのは、もうクセみたいなものだ。思考は「オレ」なのだが、口に出る言葉は「私」、今更すぐには切り替えられない。
まぁ「私」なら社会人(?)的にも問題はないわけだし、無理に切り替える必要は無いかもしれないが。
けど、良かった……生きていてくれた。これで心残りが1つ減った。
「その前に、今がいつだか分かるかい?」
「ええっと……昨日が森の季節の6巡り目の第2日だったから、第3日ですよね?」
「記憶はしっかりしてるようだね。けど、今日は第4日さ」
「……私は丸1日以上眠っていたってことですか?」
びっくりだ、そういえば、身体が少し重いような気がする。
気分は悪いどころか、逆に調子がいいくらいなんだけど。
「…………」
「……なんでしょうか?」
シズネさんがオレのことをどこか探るような眼で見ている。
「いや、賢いにしても度が過ぎると思ってね。
答えた日付が1日ずれていると聞いて、すぐに自分が丸1日寝ていたという事実にたどり着いた。
あまり5歳児らしくはないね」
「そうでしょうね。私も自分が普通の5歳児と同じだとは思っていませんし」
「……その口調が地かい? 何も分からない子供の振りをしてたと言う訳だ?」
「うーん、それは私にも分かりません。確かに外面は良くしていましたけど、振りと言うか猫を被るくらい、誰でもやるでしょう?
……ほら、外見的には可愛いらしい5歳の女の子なわけですし?」
オレが少しおどけて見せると、シズネさんは苦笑する。
「まぁ、ともあれ、食事をして少し休んで、あたしの診察を受けてからだ」
なるほど、医者として倒れたまま眼を覚まさないオレの具合を看ていてくれたというわけか。
自発的にか父親に頼まれたのか、の違いはあるかもしれないけど。
「分かりました。シズネさんの言葉に従います」
「ひとまず、水分と栄養の補給が先だな。すぐに食事を持ってくるから待ってな」
「はい」
オレの返事を聞くと、シズネさんは素早く部屋から出て行った。