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5歳:「祈りにも似た強い願い(3)」

 

 

「《大いなる力はガーナクト 手と心にアム・ア・イド 宿るゼーレール》」

 

 

 まずオレが使ったのは魔術の効果を増幅させる魔術だ。

 

 保有魔力が活性化しているのが分かる。

 その証拠に、両手が淡い白色光で輝き、身体全体が微かな高揚感に包まれる。

 

 

「お父様、少し下がってください…………《癒しの風よリザ・ド・フィムーラ 吹けシェレーヤ》」

 

 

 オレの気配に圧されるようにして、父親が母親から少しだけあとずさった。

 

 父親が母親から離れたのを確認し、両手を広げて、魔術を使う。

 母親を中心とした暖かな風の渦が発生し、傷を治していく。

 

 

「《癒しの水よリザ・ド・フォーラ 巡れロフーヤ》」

 

 

 身体から流した血液を戻すため、血などの体液を増やすための魔術だ。

 もっとも、この魔術自体だけでも傷を治す作用があったから、これで大体の傷は治るはず……。

 

 

 立て続けに3つの魔術を唱え少しだけ冷静さが戻り、同時に心に不安が膨れ上がる。

 

 オレは、この約2年半でさまざまな魔術の訓練と実験を行なっていた。

 攻撃魔術はもちろん使えないが、次に使えなかったのが対人を想定した魔術だった。

 対人を想定した魔術、その際たるモノが回復魔術系の魔術だろう。

 

 

 『グロリス・ワールド』で使われる回復魔術の基本は、HPの回復と毒や麻痺、戦闘不能などのバッドステータスの解除である。

 “ルーン”と魔術の設定により、それらの効果を重複させたり、消費魔力と効果の効率を考えたりして魔術を作ることはできるが、結局のところゲームにおけるパラメーターの変更の差でしかない。

 

 ゲーム中のキャラクターは、HPという数値と健康状態という文字列、その2つだけで表されていたからこそ、回復魔術の効果はそれだけで十分だった。

 

 しかし、現実に生きている人とゲームプログラムは違う。

 

 

 ここに1人で内緒の訓練をしていた欠点が出た。

 回復魔術を使った実験をしようと思ったら、自分で自分の身体を傷つけるしかない。

 いくら治せるからといっても、自傷はちょっと……。

 もちろん、対象不適正で魔術は失敗するが、魔術の構成や“ルーン”の発声の練習だけはしておいた。

 結果として、どの魔術でどれだけの怪我を治せるのかなどがハッキリしていない。

 

 先日、ジルの怪我を治したのが、オレが初めて使った回復魔術だったのだ。

 つまり……これが僅か2度目の経験となる。

 

 風属性系と水属性系の“ルーン”による回復魔術は、しっかりとかかったはずだ。目に見える傷はふさがり、身体内部の傷も治っていると思われる。

 しかし……母親の顔に生気が戻らない。

 

 

「ええと、こういう時は……《瞳がモア  見るモァース 躯をティス 知るテラール》!」

 

 

 人の状態を確認する魔術を思い出して、即座に使う。

 オレの意識へ母親の状態が浮かんできた。

 

 ――対象:20代女性体/意識:昏睡/怪我:なし/病状:軽度の貧血/異常:出産直後、血流停止、体温低下…………。

 

 意識がなく、血の流れが止まっている……心肺停止状態っ!?

 

 

「《時の流れにパム・ド・ロフーム 逆わらずバスノ、…………」

 

 

 死者の蘇生、そんな大それた魔術を使うつもりはない。

 

 脈拍や呼吸が止まっていても、まだ死んでいないというのは、元の世界では常識として確立された事実だ。

 本来は、人工呼吸や心臓マッサージを行なうのだが、今のオレには魔術がある。

 

 

「……戻るにバク 在らずルータノ、…………」

 

 

 もし、この魔術に意味がないというならば、オレはオレとして転生した意義を失うだろう。

 いや、そんなモノはどうでもいいんだ……助かって欲しい。祈りにも似た気持ちで強く願った。

 

 オレはまだ貴女に何も返せていないんだ。

 

 

「……命の灯よイフ・ド・ライーラ 燃えろアニーヤ》!!!!」

 

 

 

 

 魔術の掛け声と共に、母親の頬に赤みが戻る。

 

 それを見た瞬間、極限までに張り詰められていた緊張の糸が緩んだのか、オレは意識を失った。

 

 

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