5歳:「祈りにも似た強い願い(1)」
「むーーっ! んーー! んん~~……っ!!」
「ほら、息を小さく細かく吸って……ゆっくり吐いて……」
「んーーっ、すっ、すっ……」
膝立ちになり椅子の背を両手で強く握っている。
口にはタオルを咥えて、歯が痛むのを防いでいる。
オレと父親が部屋に入った最初のうちは、穏やかに話し合ったり、父親と母親が軽くキスをしたりしていた。
破水が起こり、徐々にその余裕がなくなり、そして……、
「もう少しだっ……ほら息んで!!」
「……んんんっ!!」
「……んなぁ! んぎゃぁ!」
産声が聞こえた瞬間、オレの体から力が抜け、隣に立っていた父親に寄りかかってしまう。
いつの間に手をつないでいたのか、父親の手がオレの手をギュッと握り締めていたのだ。
その握られた父親の手から伝わる緊張は……まだ、解けていなかった。
「ガーロォ・バーレンシア、この子をお願いします。次の子もすぐに見えてきますから!!」
次の……子?
「ええ、分かりました」
父親がシズネさんから、産まれたばかりの赤ん坊を受け取り、用意した湯で布を絞って、軽く拭いている。
拭き終わったら、バスケットに柔らかい布を敷き詰めた小さなベッドに横たわらせる。
「はぁはぁ……んーーっ! すっ、すっ……」
母親が再び息み始める。まだそのお腹の中に産まれるのを待つ命を抱えているのだ。
つまり母親は双子を身篭っていた。
先に産まれた子がぐずる泣き声と母親の苦しそうな呻き声が部屋の中に響く。
「がんばれ、大丈夫、もう半分は終わったから、後半分だ」
「んっ、んっ、んあーー! すっ、すっ……ふっ……」
シズネさんが励ましの声をかけながら、母親の顔に流れる大粒の汗をぬぐう。
1人目の子が産まれてから、どのくらい経っただろうか。
体感時間に自信があったのに……その感覚があやふやなモノになっていた。
前世の記憶があっても、医学生でもなんでもなかったオレに出産に関する知識はほとんどない。
あったとしても、ろくに役には立たなかったかもしれない。
ここは争いのない戦いの場であった。
ただ『命を継ぐ』という古く神話の時代から続いている終わりのない戦い。
情けない話、オレはすっかり緊迫した雰囲気にのまれ、ただ両手を堅く握り締めているだけだった。
反面、どこか客観的で冷静な自分もいた。
そう……なかなか産まれてこない2人目に対し、シズネさんの顔に焦りの表情が浮かんでいることに気づいていた。