5歳:「村の子供とオオカミの子供(3)」
彼らは気づいているだろうか?
貴族の子であるユリアにとって、彼らとの付き合いは一種の情操教育だろう。
農家にとって、5歳にもなれば十分に家の手伝いができる年齢だ。
それを1巡りに2日、オレのために時間を裂いてくれるのだ。
両親は無意識かもしれないし、ウエステッド村の人たちからすれば、ユリアを持て成すのは当たり前のことかもしれない。
……ま、もっとも彼らも家の手伝いより、オレと一緒に遊んでいる方が楽な仕事かもしれないけど。
オレが彼らに勉強を教えているのは、ちょっとしたお礼の気持ちもある。
前世の記憶を持つオレにとって、彼らは友達であると同時に守るべき子供、という意識があるのだ。
オレは、知識というものが、諸刃の剣であることを知っている。
知識は薬にも毒にもなる。
知っていることで救われることも、知らなければ救われることだってある。
オレの教育によって得られる知識が、彼らを守るべき力となってくれることを願っている。
『しゅーにぃ! ゆぅちゃん! こっちきてー!』
つらつらと考え事をしながら、林で木の実を拾っていると、遠くからクータ君がオレを呼ぶ声が聞こえた。
何かあったのか? 声が聞こえると同時に、オレは走り出していた。
「クータ君、どうしたの?」
「ゆぅちゃん、あれ……」
「ぐるぅぅるぅ……」
クータ君が指をさした先に茶色の子犬が、こっちを威嚇していた。
「あれは〈ブラウンウルフ〉の子供ですね。
お嬢様、クータ君、危ないから下がってください」
「しゅーにぃ、あのこ、けがしてるの」
オレのすぐ後ろから、シュリとイアン、サニャちゃんもやってきた。
さりげなくオレとクータ君を守る位置に立つ男の子2人、ポイント高いな、うん。
クータ君が指摘したとおり、〈ブラウンウルフ〉の子供は後ろ右足から血が出ていた。
その足が木の裂け目に捕まっていて、逃げ出すことができないようだ。
「ここから石を投げつけて殺そうぜ」
「そうですね。それがいいかもしれません」
イアンとシュリの言うことは正しい、〈ブラウンウルフ〉の子供ならば、ここで退治してしまうのが正解だ。
基本的に農村にとって野生の狼は害獣でしかない。
『!?』
こっちの意図を悟ったのか、〈ブラウンウルフ〉の子供の目に怯えが見えた。
……あれ? よく見れば、綺麗な銀色の瞳をしている?
「《瞳が 見る 獣を知る》」
シュリの背中越しに、魔術をかけ……あ、失敗した。魔術への抵抗力がかなり高いな。
消費魔力の出力を上げて、もう一回かける。今度は成功した、どれどれ……ふむ。
「……安心して、わたしたちは敵じゃないから」
「お嬢様!?」「おい、お嬢、近寄ると危ないぞっ」
かけた魔術の情報が正しいなら、この子は〈ブラウンウルフ〉の子供ではなく、霊獣である〈プラチナウルフ〉の子供だ。
霊獣の子供であるならば、人の子供と同じ程度の知性をもっている可能性が高い。もっとも人に対して友好的であるとは限らないが……。
「みんな、わたしに任せて……この子は、わたしが育てるから」
独善かもしれないが、知性の高い相手……それも子供を殺すことに、少し罪悪感を感じてしまった。
それにきちんと打算もある。
霊獣であるならば、うまく育てれば強力な“使い魔”にできるかもしれないのだ。