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5歳:「村の子供とオオカミの子供(2)」

 

 

「よし、勝負だ! 手を抜いたりするなよな!」

「もっちろん!」

「村外れの一本杉を回って、先に戻ってきた方が勝ち。いつもと同じで、負けた方は勝った方の言うことを1つきく」

「おっけー」

 

 

 2人で屈伸運動をしながら、勝負の条件を確認する。

 

 この勝負は、オレがイアンと初めて会った時に、いきなり吹っかけられたのだ。新参者との格付けみたいなものだろう。

 イアンは大人顔負けの速さで走ることができたため、駆けっこでの勝負を申し出てきた。

 

 初対面の相手に自分が得意なジャンルで勝負を挑むのは、あまりフェアとは言えないが……

 

 

「《風とウィス 駆けるはリァート 馬の脚ハンス・ド・レム》」

 

 

 オレは小さく“ルーン”を呟き、走力をアップさせる魔術を使う。

 

 まぁ、これも実力のうちってことで?

 

 

 

 

「ぜぁはぁ……くっそ、はぁはぁ……」

 

 

 ふっ、結果の分かっている勝利とはむなしいモノだな。

 

 

「お疲れさまです。ユリアちゃん、お水飲みます?」

「ありがとう、サニャちゃん」

 

 

 この駆けっこもすっかり恒例になっていて、サニャちゃんの対応も慣れたものだ。

 用意してあった木製のコップを渡してくれる。

 

 受け取って、コクコクと一気に飲み干した。少し火照った体に冷たい水が美味しい。

 

 

「それじゃあ、イアン、わたしが勝ったから、今日も楽しくお勉強ですよ?

 それが終わったら木の実拾いに行きましょう」

「またそれかよっ!? たまには勉強以外にないのかよ!」

 

「いーにぃ、まけたのにぃ?」

「クータ! おれはやらないとは言ってないだろ!」

 

 

 初対面の時に勝負に勝ったはいいが、何をすればいいのか迷った末に、オレはイアンに勉強を教えることにした。

 この手の子供に勉強ほどキツイ罰ゲームは無いと思ったからだ。

 

 

「おはようございます、お嬢様。ちょうど良いタイミングだったみたいですね」

「ゆーゆー」

「シュリ、シュナちゃんも、おはようございます」

 

 

 そこに赤ん坊を背負った少年がやってきた。

 少年の方がシュリ、背負われている赤ん坊がシュナ、2人は兄妹で同じ茶色がかかった黒髪に濃い緑色の瞳をしている。シュリはオレより3つ上で、シュナはオレより4つ下の1歳児だ。

 

 生真面目なのか、様付けをやめるようにお願いしても、「お嬢様」と呼ぶことを譲らない頑固な所がある。

 ただ、それは自分ルールらしく、イアンやサニャちゃんがオレのことをどう呼ぼうが気にしていないようだ。

 

 

「お嬢様、先日教えてもらった“3ヘイホウのルール”ですが、確かにそうなるのですが、何故そうなるのかは分かりませんでした」

「ん~、答えが知りたい?」

「できれば、もう少し考えたいと思います」

「それじゃあね、ヒント。以前、教えた四角形と三角形の面積の求め方を使うんだよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、今日は何を教えてもらえるのでしょうか」

「ボクね! ちゃんと“ひゃく”まで数えれるようになったよ!」

「わたしは、詩の書き方についての続きが知りたいです」

 

 

 イアンに対する罰ゲームのつもりで始めた勉強会だが、それ以外の3人にはずいぶん好評だった。

 簡単な読み書きと算数を教えたところ、シュリとクータ君は数学に、サニャちゃんは詩歌の創作にハマっていた。

 

 

「順番にね。まずは、イアンに出していた“宿題”を教えてもらおうかな?」

「今度のお祭りについて話せばいいんだよな?」

「あ、発表は地面に文字で書いてね」

「うげっ……話すだけじゃダメなのかよ」

「せっかく文字の勉強をしてるんだから、ちゃんと復習もしないと、ね?」

 

 

 そして、イアンはブツブツ言いながらも、手ごろな枝を拾って地面に文字を書き始めた。

 イアンも真面目ないい子である。

 

 

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