5歳:「村の子供とオオカミの子供(1)」
それから3日間、特に変わったことはなく、あの夜の出来事は夢ではないか? と思えるくらいに何事もなく過ぎた。
「それじゃあ、行って来ます」
「いってらっしゃい、あなた。ユリィちゃんも気をつけてね」
「はい! 行ってきます!」
今日はオレが屋敷から一番近くの村であるウェステッド村(アイラさんが住んでいる村)に行く日だ。
1巡りのうち、基本的に5日目と10日目は、昼間をウェステッド村で過ごすことになっていた。
最初は慣れなかった馬での移動も、最近は何となくコツが掴めてきた。と言っても父親が操る馬の前に座らされた2人乗りの状態で、だけど。
オレが馬を操るには少々背丈が足りない。
馬に乗って四半刻(30分弱)後、オレと父親は村の入り口に到着していた。
「おはようございます、ご領主様、お嬢様」
「ライラ殿、いつも出迎えありがとうございます」
「おはようございます。ライラさん」
「いえいえご領主様とお嬢様のためなら、お屋敷まで迎えに出ても苦になりません」
オレは父親に馬から降ろしてもらい、ライラさんへいつもどおりの挨拶をする。
村の入り口でオレたちを迎えてくれた女性はライラ・ウェステッドさん。女性でありながら、この村の村長を務めている女傑だ。
元々村長だった旦那さんが数年前に亡くなり、一時的にと村長代理を始めたのだが、村の人たちの支えもあり、いつの間にか代理ではなく、本物の村長となっていたらしい。
「何か問題はあるかい?」
「問題と言うわけではないのですが、豊穣祭の件でいくつかご確認したいことが……」
ちなみに、アイラさんの実の母親でもある。なので、アイラさんの本名はアイラ・ウェステッドとなる。
アイラさんを産んだにしては、ずいぶん若く見えたが、母親と言う例もあるので、そんなものかと思っていた。
アイラさんが15歳というならば、歳相応の女性だ。
髪の色は濃い茶色で、アイラさんの赤茶っぽい色は亡くなった父親からの遺伝なのかもしれない。
ただ、アイラさんと同じ少しキツい感じの目付きと濃い茶色の瞳が、2人が親子であることを示していた。
「それじゃあ、ユリア、他の村も回ってくるから、僕が帰ってくるまで我慢しておくれ」
「だいじょうぶです! お父さま、行ってらっしゃい~」
2人の相談が一段落つき、父親は再び馬に跨ると、馬上からオレへの別れの挨拶をする。我慢なんてしていません。
父親を見送ると、オレはライラさんに連れられて、ライラさんの家の近くへ移動する。
「それじゃあ、私は家にいますので、何かありましたら、すぐに声を掛けてください」
「はい、分かりました」
オレの返事を聞くとライラさんは家の中に入っていった。
ライラさんの家の横にある広場では、3人の子供がすでに遊んでいる。オレが近寄ると、向こうはオレが来るのを待っていたようだった。
「ようっ、今日こそは負けないぞ!」
「おはようです、ユリアちゃん」
「ゆぅちゃん、おはよぉ」
いきなり勝負を吹っかけてきたガキ大将な少年がイアン。
ツンツンした赤髪に黄土色の瞳がヤンチャな性格を表している。歳はオレの1つ上。
少しおっとりとして、どこか母親と同じ雰囲気を持った少女がサニャ。
絹のような黒髪に澄んだ青い瞳を持つ綺麗な少女だ。歳はイアンと同じで、オレの1つ上。
最後の少し舌足らずな挨拶をした小柄な少年がクータ、オレと同い年ながらオレより頭一つ小さい。
赤茶の髪に焦げ茶色の瞳、いつも無邪気そうにニコニコしている小犬系癒し少年である。
「イアン、サニャちゃん、クータ君、おはようございます」
今ここにいないが、この3人の兄貴分的な存在であるシュリという少年とその妹のシュナちゃんを含めた5人が、オレの幼馴染となる友達たちだ。