5歳:「男たちの交流(3)」
夜、オレはベッドで横になりながら、思考のループに陥っていた。
原因は、今頃になって気づいてしまった事実のせいだ。
オレの記憶と嗜好は、主に前世の大杉健太郎、つまり男のものだ。
「そして、わたしの身体は、ユリア・バーレンシアという名がついた女のもの」
可愛らしい声が自分の口から零れ落ちる。
将来、オレが取りうる道は3つある。
それは「精神的な男同士」か「肉体的な女同士」か「孤高の独身」かだ。
う~ん、ハッキリ言って、こればかりは前世の記憶も頼りにならない。
なぜなら、前世はそれこそ生まれてから死ぬまで恋人というモノがいた例がないからだ。
「精神的な男同士」は、最もオーソドックスな解決方法かもしれない。傍から見れば通常のカップルだからだ。
ただ、個人的には「肉体的な女同士」が捨てきれない。
今のオレなら、恋人にアイラさんかハンスさんのどっちかを選べと言われたら、迷いなくアイラさんを選ぶね。だって可愛い女の子の方が好きだし。
しかし、その場合、世間体に問題がでる。
まだこの世界の道徳観が分からないが、貴族とかは自分の家の血を残すことを至上としてそうだしな。
そして、最後の手段は「孤高の独身」、つまり一生涯未交際未婚を貫くというものだ。
……多分、人の暖かさを知ってしまったオレは、1人だけでの暮らしには戻れないと思う。
そして、オレは……
「…………喉が渇いたな」
それ以上考えることをやめた。
結婚なんて、どんなに早くても10年は先の話だ……ビバ、問題の先送り。
それにオレは、前世を含めて恋すらしたことがない恋愛未経験者なのだ
“オレの恋愛”が、心と身体のどっちに依存するのか分からないけど、今から悩んでも仕方がないと思う。
それに「楽しい人生を送ること」を目標にしたのだ。将来のことで、うじうじするのは面白くない。
なるようになるさの気持ちで、とりあえず割り切ってしまう。
「ん~……《闇を見るは猫の瞳》」
魔術を使い、自身の目に暗視能力を付与した。
台所で水瓶から水を飲んで、自室に戻る途中、両親の部屋の扉が開いた。
オレが隠れて様子を見守っていると、部屋からは、両親ではなくシズネさんが出てきた。
その表情は堅く、扉を閉めると小さく溜め息を吐く。
その様子を目撃したオレの中に、言い表せない不安と漠然とした恐怖が生まれる。
こんな時間になるまで、シズネさんと両親は何を話していたのだろうか?
それは、昼間の明るい時や食事をしながらでは、話せない内容なのだろうか?
……何がそんなにシズネさんの表情を堅くさせているんだろうか?
オレは、シズネさんがいなくなるのを確認し、急いで自室へ戻ると、そのまま毛布の中へと潜り込んだ。
そして、ギュッと眼をつぶり、眠気が襲ってくるのをジっと待った……。