5歳:「男たちの交流(1)」
裏庭に近づくと、前方から木と木がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「何の音でしょうか?」
「おや、まだ続いていたのか」
シズネさんは、音の原因が何か分かっているようだった。
森の小道を抜け、裏庭へと出る。
「はぁっ! てぁっ!! ……はぁはぁ」
「最初の勢いは、どうした? 息が上がってきたじゃないか」
「ちっ、「腕が衰えたかもしれんが」とか言ったのはブラフですか、隊長っ! とぁっ!」
気合と共にハンスさんが、ロイズさんに切り掛かる。
2人の手には、木でできた剣が握られていた。つまり模擬戦みたいなものか?
「元隊長だ。俺は「かもしれん」と言ったんだ。そういうお前の方は、「昔の自分じゃない」と言ってたのは嘘じゃなかったようだな。
腕を上げたじゃないか」
「そんな余裕の顔で言われましても、凹むだけですけど、ねっ!!」
「そう言うお前こそ、まだ、喋る余裕があるだけ、立派になったもんだ、そらっ!!」
カコーン……トサッ。ハンスさんの木剣が地面に転がる。
左上段から右下へ振り下ろすようなハンスさんの一撃を、ロイズさんが斜めに構えた木剣で受け止めつつ、相手の振り下ろす力を利用し、木剣を吹き飛ばした。……と言うのは、後で教えてもらったんだけど。
ロイズさんが切り返す流れで、ハンスさんに剣を突きつける。勝負ありだ。
「まだまだだな、続けるか?」
「参りました」
「ふむ、お嬢様とシズネさんが戻ってこられたようだし。ちょうどいいから切り上げるか。おい、ハンス」
「ご指南ありがとうございます、なんですか?」
「滞在中は毎日稽古をつけてやる。王都に帰るまでには俺から一本取れるようになってみろ」
その一言が止どめになったのか、ハンスさんががっくりと膝から崩れ落ちる。
「おかえりなさい、お嬢様、シズネさん」
「はい、ただいまもどりました!」
「うう、バカンスのつもりだったのに。ちょっと隊長の鼻を明かしてやろうという軽い気持ちが……」
「なぁに、俺も相手がいなくて少しモヤモヤしてたんだ。感謝されるほどのことじゃない」
「……今のセリフのどこに感謝の言葉がありましたかっ?」
ハンスさんて、顔やがっしりとした肉体はカッコイイんだけど、中身が少し三枚目だなぁ。
いや、ここは親しみやすくて好ましい人柄と言っておこう。ものは言い様だが。
「あの、お水飲めますか?」
「ありがとうございます。アイラ嬢、今の貴女は花の精霊様のようだ」
「え、あ、その……」
アイラさんがハンスさんにタオルと水を渡していた。
どうやら、近くで待機していたようだ。
そのアイラさんの手を握って熱っぽく見つめるハンスさん。
アイラさんの方は、少し困惑と言うか、恥ずかしがっている感じか?
「ほう、まだ物足りなかったか? もう一本行くか、ん?」
「十分であります、隊長!」
「ロイズ様も、どうぞ……」
「ん、ありがとう、アイラ嬢。
というか、ずっと見てたようだが、つまらなかっただろう?」
「いえ、そんなことはありません!」
「そうか? なら、いいが」
オレも途中からだが初めて見た生の剣術は迫力があり、結構楽しかった。
素人目ながらハンスさんの動きも決して悪くなかったが、ロイズさんの方はまだまだ余力があり、何枚も上手って感じだ。
しかし、こんな身近に剣の使い手がいるとは、……可愛く頼んだら教えてくれるかなぁ?




