5歳:「訓練の成果と加護の力(2)」
「あ、シズネさんだ」
森の広場にやってきたのは、シズネさんだった。
オレの掛け声で、向こうもこっちの存在に気づいたようだが、少し驚いた表情をしている。
「おや、ユリアちゃん……ここで何をしてたんだ?」
「おさんぽ中です。今日はお天気がいいので日向ぼっこをしていました」
「地面に直接座ったら、お尻が冷たくならない?」
「大丈夫です♪ シズネさんもおさんぽですか?」
ここに来たのは、たまたま散歩の途中だったのか? それなら問題ないんだけど……。
「ああ、散歩の途中で、何か強い力の気配を感じたので来てみたのだけど……ユリアちゃん、何か変なことなかった?」
……ヤバッ!?
もしかして、シズネさんて、そういうのが分かっちゃう人だったり?
今まで、誰も気づいてなかったから油断してたかも……。
「強い力って、なんですか?」
「いや、あくまで勘というか……。あたしには【野兎の加護】があるからね。
何か強力なモノが近くに現れたり、よくない出来事が起こる時は、何となく分かるのさ」
「ウサギさんのカゴですか? ウサギさんがお野菜を運ぶのですか?」
「ああ、そっちの籠じゃなくて、加護ね……ええっと、あたしのことを、ウサギさんが守ってくれるんだ」
「なるほどぉ……」
分かってないのを分かった振りをする子供の振りをして誤魔化す。ややこしいな。
ふと、シズネさんは、どうやって自分の加護を知ったのだろうか? ……って、魔術か?
『グロリス・ワールド』でもモンスターのデータを看破する魔術があったし、応用すれば人を調べることができそうだ。今度試してみよう。
しかし、【野兎の加護】を持っているのか。
確か『グロリス・ワールド』だと、近くにいるモンスターやトラップの位置が分かるという魔導だったはず。
低ランクながら使い勝手がよく、キャラクターに持たせているプレイヤーが多かったのを覚えている。
『グロリス・ワールド』の【先天性加護】は取得条件の難しさによってランクがあり、一番低いランクが【小獣の加護】、ついで【霊獣の加護】、最も取得の条件が厳しい【幻獣の加護】と3つに分かれていた。
この分類は、もしかするとこの世界でも通用するのかもしれない。
ちなみにシズネさんの【野兎の加護】は【小獣の加護】に、オレの【一角獣の加護】は【霊獣の加護】に分類される。
この分類に似たようなもので【精霊の加護】があるが、これは【先天性加護】とは別で、ほとんどが後天的に直接精霊から与えられる加護のことだ。
加護の力も、与えてくれた精霊の力が反映されるため、最も強い【精霊の加護】は、精霊王から与えられたモノとなる。
閑話休題。
シズネさんが感じた強い力の気配というのは、もしかしなくても、オレの魔術が原因だろうか?
ネットゲーマーの血が騒ぎ、ただひたすら「魔力上げ」をしていたが、今の時点でこの世界の平均的な魔術師より、オレの方が強い魔力をもっている可能性が高い。
5歳児で、今のオレくらいの最大保有魔力量があるのは、どの程度珍しいことだろう?
1万人に1人くらい? それ以上? ……比較できる情報がないのが悔やまれる。
「しかし、随分大きくなったな。それにしっかり者だ。
あたしが最後に見たユリアちゃんは、こ~んなに小さかったのに」
そう言って、右手の人差し指と親指を広げてみせる。いや、そのサイズだと胎児では?
「お姉ちゃんになるから、しっかりしなきゃダメなのです」
「そっかそっか、お姉ちゃんになるんだもんな。楽しみかい?」
「はい! 赤ちゃんが生まれたら、たくさんかわいがってあげます」
これは本心からの言葉だ。初めて魔術が使えた時以上にワクワクしている。
「そろそろお屋敷に戻ろうか?」
「はい、わたしもいっしょに帰ります」
今日はこの辺でいいか。それにシズネさんがいる間は、あまり魔術は使わない方がよさそうだなぁ。
いっそ、しばらく魔術の特訓はお休みということにするか。