5歳:「お客様がやってきました(2)」
「それじゃあ、今度このお化粧も少し分けてあげるから、当日はライラさんにお願いしてね」
「ありがとうございます」
「あ~あ、本当なら、わたしもお祭りでアイラさんの晴れ姿を見たかったんだけど」
「奥方様は、お体を大事にしてください」
残念そうにボヤく母親のお腹を、アイラさんが心配そうに見つめる。
「初めてじゃないんだし、大丈夫よぉ」
そう言いながら大きくなった自分のお腹をさする。
もうすぐオレに、妹か弟ができるらしい。
4歳の誕生日に自分の部屋をおねだりし、両親とは別の部屋で寝起きをするようになったのも、間接的な理由かもしれない。
前世では本当の兄弟姉妹に憧れていたけど、まさか、転生して弟か妹ができるなんて、夢にも思っていなかった。
妹なら可愛らしく、弟ならオレが立派な男に育ててやろうと密かに決意している。
「マリナ様ー、どちらにいらっしゃいますかー?」
「あら? ロイズさん、何の用かしら? はーい、こっちですよー」
母親が返事をして、しばらくしてコンコンと扉をノックする音と共にロイズさんが入ってきた。
「こちらにいらっしゃいましたか。おや?」
入ってきてすぐにドレス服姿のアイラさんが目に入ったようだ。
「ふふふ、アイラさんのこの姿はどうかしら、ロイズさん? 殿方を代表してのご意見を聞かせて」
「ん? とても似合ってるんじゃないでしょうか。
アイラ嬢、まるでどこかのお姫様みたいだな」
「あ、ありがとうございましゅ!」
噛んだし、白粉をはたいた頬が真っ赤になっている。褒められ慣れてないんだろうなぁ。
ロイズさんは臆面もなく褒めれる辺り、女慣れしてるって感じがして、男としては憧れるな。
「それで、何かあったのかしら?」
「あ、そうでしたそうでした。シズネさんが到着しましたよ。ひとまず、応接室に通しておきました」
「まぁまぁ、分かったわ。教えてくれてありがとう。
アイラさん、その服を着替えたら、お茶の用意をお願いします」
「かしこまりました」
それだけ言うと、母親はあわただしく部屋から出て行ていった。
「ロイズさん、シズネさんというのは、だれですか?」
「ああ、王都の病院に長年勤めている女医さん、えーと、女性のお医者さんだな。
今度のマリナ様のご出産のために、わざわざ屋敷までお出でくださってるんだ。
今日から出産までの間、うちに滞在していただけることになってる。
まぁ、日頃の激務への休養も兼ねているみたいだから、持ちつ持たれつだけどな。
ちなみに、お嬢様が生まれた時も、シズネさんが立ち会われているぞ」
つまりは、産婦人科医みたいな人かな?
「覚えていません……」
「そりゃそうだ。お嬢様もご挨拶しにいくか?」
「はいっ!」
少なくとも、母親だけでなくオレにとっても恩人である人だ。しっかり好印象を与えておかねば。




