15歳:「お嬢様をお迎えしましょう(3)」
「これは、変わった風味のお茶ですね」
「綺麗な水の清流に生える〈白苔〉を煎じたお茶也。健康と美容に良いと言われている也。おかわりは必要也可?」
「美味しいですわ。おかわりもお願いします」
ミロンさんが席を立って、マルグリット嬢のカップにおかわりを注ぐ。
香りはあまりないが、ほんのりとした甘さにとろりとした舌触りが特徴だ。
ポットには煎じた〈白苔〉と一緒に生のショウガが一切れ入っているので、ピリっとした刺激がする。
「……じぃ」
「セラちゃんでしたっけ? カップケーキも美味しいですわ」
「……ほんと?」
「ええ、本当ですわ」
すっかりセラちゃんはマルグリット嬢に懐いているようだ。
ほほえましすぎるが、ちょっと悔しい。
お茶会の話題は最近の学院の話題だったり、先日のゴロツキの話をしてみたり。
例の仮面騎士の話題になったときには、タマコさんが急にそわそわしだしたりと面白かった。
女が3人集まれば姦しいと言うが、その倍の6人もいるのだから話題は尽きないようだ。
「さて、マルグリット様。よろしければ、私の部屋で例の話をしたいのですが」
「っ! ええ、構わないですわ」
一刻ほど楽しんだところで、私は本題の話をするべくマルグリット嬢を自室に誘う。
見ていなければ、気付かない程度にわずかな緊張がマルグリット嬢の表情に浮かびすぐに消えた。
「それじゃあ、すみません。先に失礼します。ミロンさん後片付けをお願いします」
「了解也」
和やかな時間もここまでかな。
できるだけ穏便に話を納めるつもりだけど、さて、どうなるか。
「ここがユリアさんの部屋ですの?」
「あまり綺麗な部屋でなくて申し訳ありません」
食堂を出て、マルグリット嬢を自分の部屋へと案内した。
オースギ寮では基本的に小さいながらも全員に個室が与えられる。
もっとも小さいといっても前世の単位で12畳分はある。
ぶっちゃけて言えば、私が男子大学生の頃に借りていたマンションより広い。
バーレンシア家の自室よりは狭いけどな。
「いえ、十分に綺麗だとは思いますが……」
「座る場所もありませんので、そちらのベッドに腰かけてもらえますか?」
マルグリット嬢をベッドに座らせ、自分は、木の丸椅子を取り出してその前に座る。
部屋の中は基本的に殺風景だ。
調度品は、机と椅子、ベッド、チェスト、本棚、嗜みとしての姿見。
机の上には紙とペンとインク、チェストの上に実家から持ってきたヌイグルミが1つ乗っている。
どうも昔から部屋に色々なものを置くのが好きではない。
一応、人が住んでいる生活感はあるのだけど、女の子の部屋というより潔癖な青年の部屋って感じかな?
精神に依存した結果とも言える。
落ち着くまで待っていると、マルグリット嬢と目があった。
しばらくの間、部屋の中を見回していたが、とりたてて何もないため、すぐに見終わったようだ。
私は、ゆっくりと〈発動具〉を付けた右手を挙げるとそっと口を開いた。
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