3歳:「才能に関するエトセトラ(1)」
「ただいまー!」
「お、おかえりなさい、ユリィちゃん…………はぁはぁ」
「おかえりなさい、ませ、お嬢様…………すぅはぁ」
家に帰ると、まるで全力疾走した後のような母親とアイラさんが待っていた
母親は椅子に腰をかけて、アイラさんは箒にもたれかかるようにして、息を整えている。
……結局、2人で後をついてきてたんだな。
花を摘んだ後、オレは急に立ち上がると、走って屋敷に向かってみた。
まぁ、そんなオレの動きを見た2人は慌てて走って先回りをした、と……その努力に免じて気がつかない振りをしてあげよう、服についている葉っぱとか。
「お母さま、ありがとうございました! これは、かんしゃの気持ちです」
そう言って、笑顔と共に小さな花束を差し出す。
「まぁまぁ、可愛いお花ね。アイラさん、花瓶に活けておいてもらえるかしら?」
「かしこまりました」
オレの手から花束を受け取った、アイラさんが部屋から出て行った。
「お母さま、明日からも1人でおサンポに行ってもいいですか?」
「う~ん、そうねぇ。
ユリィちゃんは、ちゃんと約束を守ってくれてたみたいだし……1人で水の近くに寄らない、あんまり遠くに行かないって約束してくれるなら」
「はい、やくそくします!」
軽く語るに落ちてるよな。水辺に近づかないという約束を守ったと言うのは、見守っていないと言えないセリフだろう。
まぁ、しばらくは、後ろについてくるかもしれないけど、こっちが注意すればいいか。
「それじゃあ、夜のご飯まで、お庭であそんでいますね」
「はい、何かあったら、すぐに戻ってくるんですよ」
「はーい!」
他の人の目がある所では、あまり派手なことはできない。
なので、軽く身体を鍛える程度にしようと思う。
裏庭ではなく、玄関側の表庭で、体操をしたり、走ったりする。
幼少期は下手に筋力をつけると成長を阻害すると、前世で聞いた覚えがあるので、あくまでほどほどを心がける。
ムキムキマッチョな美少女っていうのも微妙だしな。
目標はスラリとしなやかで細身の美少女だ。
今のところは、まだ幼児体型っていうか、ぷにぷにした感じが否めないが。
運動が終わったら、緑色のアリみたいに地面に巣を作っている虫を観察したり、アイラさんと一緒に花壇の水やりを手伝ったり、ロイズさんがウマを世話するのを眺めたり。
まぁ、3歳児のできることなんて限られているわけで、これが結構時間が余る。
将来に向けて色々とやっておきたいこともあるし、今日からは、その時間も有効に使っていこう。
そんな決意を固めていると、父親が馬に乗って帰ってきた。
と入れ替わりに、アイラさんが村へ帰っていく。
こうして、オレの新しい1日目は終わった。