15歳:「市場のちょっとした騒動(2)」
「てめぇ、貴族だろうがなんだろうが、生意気に言ってっと痛い目をみるぜ? こちとら、舐められたまま引き下がるような腰抜けじゃないんでな」
「ふんっ、そんな口先だけの脅し文句でわたくしが怯むと思ってかしら? さっさと、このお嬢さんに謝ったらいかがですの?」
説明をしてもらっている私が視線を外していた短い時間で、口論が白熱しており、まさに一触即発という状況だった。
なんかこう、面白いくらいにお嬢様キャラなんだよなぁ。
高飛車な物言いと、金髪の縦ロールが光り輝いて見える。
それでも、どこか親しみをもててしまうのは、マルグリット嬢の魅力だろうか。
学院で見かける彼女は、周りで人が集まっていることも少なくない。
とりあえず、さっき聞いた話どおりだとすれば、彼女の行動はセラちゃんを守るための行動だと言える。
彼女は良い意味で自己中心的な正義の味方タイプという感じかな。
私への対応を見る限り、多分、彼女には彼女の理由があり、その理由に沿えば私は悪なのだろう。
家の地位が低いからと言って見下すような性格ではないのは、学院での言動を見ていればわかる。
嫌われる心当たりがないので、理由を聞きたいとは思っているのだが……
「そっちこそ、謝るんなら最後のチャンスだぜ? その生意気口を開けないようにしてやりたくてウズウズしてるんだからよ」
「か弱い女性1人に3人がかりでないと喋れないような臆病者の脅しなんて、たかが知れておりますわね」
「んのっ……」
もしここが王都ならば、大貴族家の子女であるマルグリット嬢の身は、その実家の権力などによって守られていただろう。
だがフェルベルは特殊な街の1つであり、活気がある反面、この男たちのような乱暴者が集まっている。
「へっ、オレらはな、王国兵が怖いんであって、貴族様が怖いわけじゃねぇんだ、よッ!」
大雨に耐えていた堤防が一定の値を超えると突如決壊するかのように、その動作は一瞬だった。
「きゃぁっ」
私がどうするか悩んでいる隙を突かれ、一番先頭にいた男がマルグリット嬢の頬を平手で打った。
フェミニストを気取るわけじゃないが自分が躊躇していたせいかと思うと最悪だ。
周りを取り囲んでいた人々にも動揺が走る。しかし、だれもこの騒動に巻き込まれたくはないのか遠巻きにささやくだけだ。
マルグリット嬢は、男の暴挙に地面に倒れ込んだが、とっさに顔を上げて自分を殴った男を睨み返す。
「勇ましい割に、悲鳴はずいぶんと可愛らしいかったな、はははっ」
「それじゃあ、貴方たちの悲鳴はどんな感じかな?」
「は? ぐふぇ!!」
マルグリット嬢を殴り飛ばした男の脇腹に私の拳が刺さる。
飛び出す前に身体能力を高め硬くさせる魔術を使っていた。
今の強化された私の拳は、鉄を思い切り殴っても傷はつかない。
そのため殴った力がそのまま相手へのダメージとなる。
脇腹の防御が薄いところを狙った一撃だ。男は倒れこんで苦しそうに悶える。
ふ、やっちまったな。
「見たまんま品の欠片もないような悲鳴だね」
「「なっ!?」」
私が男を吹き飛ばしたことが理解できないのか、残りの2人が戸惑いながらこっちを見る。
そんな2人に隙を見せないようにして、いまだに倒れているマルグリット嬢に手を差し伸べる。
「立てる?」
「手助けは結構、1人で立てますわ! そして、ユリア・バーレンシア! なんで貴方がここにいらっしゃいますの!?」