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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
学術都市フェルベル編
135/146

15歳:「生活に役立つ研究(3)」

 

 

 50メルチほど先にあるオレンジをじっと見る。

 呼吸を整え、これから自分が起こす効果と結果をしっかりと意識する。

 

 イメージする。

 目の前のオレンジが、私の手元の上に、優しくそれでいて素早い動きで運ばれてくる感じ……。

 

 強くイメージが固まったところで、丁寧に素早くルーンを紡ぐ。

 

 

「《其をウノ  我がドェル 手の元にアム・ド・ニィ》」

 

 

 私の中の保有魔力が消費され、オレンジが一瞬で私の左手の上へと移動する。

 いわゆる物質転送アポートを時空系のルーンを使った魔術で再現したわけだ。

 

 ただ、引き寄せたオレンジは一見して問題がないように見えるが……私は右手で用意したナイフを使って、すっぱりと縦に切る。

 

「あぁ、ダメか……」

 

 今までの実験と変わらず、オレンジの中身は握り潰されたみたいにグチャグチャになっていた。

 もし、これが生身の生き物だったらと思うと、お食事に差支えが出てしまう可能性は高そうだ。

 

 もちろん、私の場合は攻撃魔術とみなされてしまって発動しない可能性が高い。

 それに攻撃魔術としては、わざわざ時空系の魔術を使うより、火属性系の魔術で火炎弾でも投げつけた方がずっと手っ取り早くて殺傷力は十分にある。

 どっちにしろ私は使えないけどな。

 

 

 空間操作のような繊細な魔術ほど、他の事象の恒常性による影響を受けやすく魔術そのものが失敗しやすくなる。

 

 事実、このオレンジの取り寄せでさえ、最近になってやっと成功するようになったくらいだ。

 瞬間移動テレポートまでの道のりはまだまだ遠そうだ。

 

 最初は外見すら引き寄せた瞬間グシャグシャになったのに比べれば確たる進歩なんだけど。

 

 5個目のオレンジをジュースの材料候補にしたところで、今日の実験を終える。

 

 

「《水よフォーラ 滴となってウォナ 集まれサーハーヤ》」

 

 

 オリジナル魔術の生絞り果汁フレッシュジュース用魔術だ。ボウルに入れていた潰れたオレンジから水分が抜け、用意してあったコップの中に集まる。

 

 そのまま冷却の魔術をかけて、実験で渇いたのどを潤す。

 

 ふ~、果汁100%のすっきりさっぱりした味が五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡る……。

 

 

 しかし、何が悪いのだろうか?

 

 『グロリス・ワールド』では、瞬間移動テレポート系の魔術は、比較的簡単に使える魔術だった。

 この辺りもゲームとこの世界では違うのだろうか。

 ゲームの進行を円滑にするため、使用の難易度が緩されていただけ、みたいな。

 

 

 検討案としては、物質の取り寄せはうまくいかないが自身の瞬間移動なら自由に行なえるのではないか?

 もしくは空間跳躍扉リープゲートならば成功するのか? 

 といったことも考えている。

 

 しかし、万が一を思うと何も考えず挑戦するには難しい。

 最悪、意識が残っており魔術が使えれば即死でない限り大丈夫だろうけど、今一歩が踏み出せないのだ。

 

 せめて、オレンジを引き寄せる実験でもう少しましな結果を出せれば、挑戦してみる気にもなるんだが……。

 

 

 何かヒントがあれば、すぐに解決しそうな、そんなもどかしさがある。

 

 今日のところは諦めて寮に帰るかなぁ。

 

 

 ……あ、確か今晩は私が料理担当だったっけ?

 

 寮の台所には食材もほとんど残ってなかったはずだから、市場に寄らないとダメそうかな。

 

 

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