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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
学術都市フェルベル編
132/146

フェル:「キミの声が聞こえる」

 

 

「うぅぅ~~……」

 

 

 ボスンと簡素なベッドに倒れこむ。同室の同期生は、すでに夢の中のようだ。

 

 訓練に次ぐ訓練で、肉体的にも精神的に疲れが溜まっているのだ。

 流石は王国軍の精鋭部隊である地軍の選抜訓練なだけはある。

 

 回復魔術を使って体の痛みは癒したものの精神的な疲労は回復できない。

 ユーリなら、この辺りも器用に回復できそうだけど、ボクの力では外傷を治すので精一杯だ。

 

 

 選抜訓練の期間は半年。

 いつ終わるのかと思ったが気が付けば、残す期間はもう3巡りほどになっている。

 

 最初は千人近くいた同期生も200人くらいに減ったそうだ。もっとも最初の季節で過半数が脱落しただけで、最近はほぼ脱落するものはいないようだ。

 本来の目標である精鋭の選抜と言う意味では十分意味がある訓練なのだろう。

 

 そのまま眠ってしまいそうになる欲求を押さえ、こっそりと部屋から抜け出す。

 ユーリにもらった眼鏡を使えば、暗い廊下も問題なく歩くことができる。

 

 ボクが成長したのか、精神的に余裕ができるようになったのか、ユーリに出会って1年経ったころから、眼鏡に頼らなくても【夜夢兎の加護】の能力を抑えることができるようになった。

 今では、以前のように、人が多い場所でも気持ち悪くなったりせず、大人数の中から1人を対象として能力を使うこともできる。

 

 寝静まった建物の中でも、さらに静かな場所でボクはそっとルーンを唱えた。

 

 

「《友の名をユレ・ド・エイム 呼びマァース 声をヴェス 聞くジャール》」

 

 

 ユーリの姿を思い浮かべながら魔術を使うと、ボクの中で何かが緩んで抜けていくような感覚がする。

 魔力が消費されるのとは別で、他の魔術を使ったときには起こらないくすぐったさだ。

 

 しばらくすると、その緩んだ何かがきゅっと結び付けられるのを感じ取る。

 

 

『こんばんわ、調子はどうだい? そろそろ訓練期間も終わる頃だっけ?』

 

 

 そして、ボクの耳にユーリの声が届いた。

 

 この魔術は、ユーリから教えてもらった彼女の魔術の1つだ。

 仕組みをユーリ説明してもらったのだが……

 

 

「“ふれんどちゃっと”を再現してみたんだ。

 えーと、遠くにいる友達とも話ができる魔術、かな?

 実際に声が聞こえているわけじゃなくて、魔術によって『口から話した言葉を、相手に耳で聞いたように認識』させているんだ」

 

 

 もっと細かく教えてくれたが、大雑把に「離れているユーリと会話ができる魔術」ということだけを理解した。

 ただ、あまり詳しくないボクでさえ、王国軍や連盟を始めとする有力な組織が、この魔術があれば色々と恩恵を受けるだろうことは想像しやすい。

 

 ユーリは、その辺りをどれだけ理解しているのかが謎だけどな……。

 少なくとも彼女の不利になるようなことはすまいと心掛けている。

 

 

「選抜訓練は、あと3巡りだね。調子は絶好とは言えないけど、訓練は大分慣れてきたよ。

 ユーリの方はどうかな?」

『お陰でなかなか楽しい毎日を送っているよ。そうそう今日は抹茶ラテを作ったよ』

「以前飲ませてもらった苦豆ラテとは違うのか?」

『そうだね、抹茶だから元々が緑色で……』

「み、緑……?」

 

 

 相変わらず突飛な行動をしているようだ。

 

 二人とも忙しくなってきたため、この魔術を使うのは1巡りのうち第10日の夜に四半刻(約30分)だけと決めている。

 

 ユーリに言うには照れ臭いので口に出していないが、選抜訓練が始まってからは、彼女との会話が心の支えになっていたと思う。

 それに、彼女の後押しがあったからこそ、王国軍に入る決心がついたんだ。

 

 まったくユーリは、大したことはないだろうと思いながら、すごいことをやる天才だと思う。

 

 

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