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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
学術都市フェルベル編
122/146

15歳:「ソニア教授の研究室(1)」

 

 

 ルノエちゃんと別れて、私は学院の中心から奥の方へと向かう。

 

 多くの生徒や教師をようする王国立フェルベル学院は、ミュージシアン大陸でも最大規模の学びと言われている。

 なにせ、30万人の人口を抱えた学術都市フェルベルのうち、約2割の土地が学院の敷地なのだ。学院の敷地を軽く一周するだけで駆け足で1刻(約2時間)は必要となる。

 

 講義棟が集まっている学院の中央を離れ、奥に移動すると教師用の研究室が集まる区画となる。

 さらにそこも過ぎると、徐々に出歩く人の数がまばらになってくる。

 

 そして、研究室が集まる区画の最も端っこに、私が目的とするソニア教授の研究室兼工房兼住居があった。

 

 

「おはようございますー。教授起きてますかー?」

 

 

 遠慮なく研究室の扉を開けて中へと踏み込む。

 

 …………。

 

 返事がない、どうやら眠ったように泥って……もとい、泥のように眠っているのだろう。いつものことだ。

 

 そして、すっかりここの生活に馴染んでいる自分に驚く。

 んー、せっかくだし適当な論文でも読んで時間を潰すかな。

 

 

 

 

 王都での5年間は、充実した毎日の連続だった。

 

 フランチャイズのファーストフードチェーン『バーレンシア商会』の開店と成功。

 食文化の変化に伴い、油の需要が高まることが予測されたので、『バーレンシア商会』を使って精油の事業を立ち上げてみれば、それも大成功。

 

 『バーレンシア商会』が立て続けに商業的成功を収めたため、その資金を元手に入浴習慣普及のための銭湯モドキを運営すれば、王都でお風呂が一大ブームになる始末。

 

 『バーレンシア商会』による収益は、あれよあれよという間に年間2000万シリルを突破……お父様の年収のざっと15倍以上だ。

 実家はすっかり成金貴族と呼ぶにふさわしい急発展振りだ。

 

 まぁ、実生活としては夕飯のおかずが一品増えたくらいで、大金に酔いしれたりしないのは、さすが私のお父様とお母様といった所だろう。

 

 ともあれ、おかげでバーレンシア家には私とシュリの二人分の学費を払っても、余りある資産ができてしまっていた。

 

 

 それから、この5年で変わったことと言えば私の身長はお母様よりも高くなり、170イルチ弱……ジルと大体同じくらいまで伸びたこと。

 胸も膨らみだし、今ならギリギリでBカップくらいはあるんじゃないだろうか?

 いまだにきちんと私の中にある男心が、微妙になる気持ちを訴えてくるが。

 

 

 私の夜会デビューは、今思い出しても少し笑いがこみ上げてくる。

 

 何せ今話題の成金貴族のご令嬢だ。夜会の参加者は全員、さぞかしぜいを凝らしたドレスで登場すると期待に胸を膨らませていた。

 そこへ一見すると質素という感想しか出てこない、黒いドレスでの登場だ。

 

 所々に小振りな宝石を身に着けているものの、肌に密着した生地には、高級なドレスの象徴であるレースや刺繍が一切使われていない。

 

 だが、夜会が進むにつれ、徐々に、私の服装が話題に上り始める。

 私が着ていたのはいわゆるマーメイドドレスと呼ばれるタイプのもので、私がフリルをふんだんに使ったドレスを嫌ったために急遽オーダーメイドしてもらったものだ。

 剣術によって引き締められた私の身体には、スラリとしたシルエットのドレスが似合うと、自己分析した結果の衣装選択だった。

 

 そんな異色なファッションが夜会の参加者の中で賛否両論を巻き起こしていた。

 

 宝石こそ小振りであるものの、眼鏡の一件で仲良くなった細工師のクムさんの手が入っている。

 黒のマーメイドドレスに合うよう絶妙な細工が施され、近くで見る人が見れば決してドレスの価値が安くないことを知らしめた。

 

 年の割には背が高く、初めての夜会に対しても落ち着いた物腰の私の言動が、話題に拍車をかけた。

 まぁ、精神年齢で言えば30過ぎなわけで、多少のことではうろたえたりしないさ。

 

 

 

 

 椅子に座って論文の束をめくっていると、トテトテとキノコが歩いてきて、私の前にお茶の入ったポットとカップを載せたお盆を置いてくれる。

 

 私が『ありがとう』の意を込めてお礼をすると『いえいえ、大したお持て成しもできず』とばかりに傘を左右に振るキノコ。

 

 

 いやぁ、ほんとできたキノコだなぁ。

 

 

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