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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
学術都市フェルベル編
120/146

15歳:「講義/堕ちた精霊王(2)」

 

 

 私たちが席に着くのと同時、講義室に担当の教師が入ってきた。

 年は30代前半くらいだろうか。まだ若く、物腰の低い男性だ。

 

 

「それでは、創世学の第5回目の講義を始めます。

 この講義も、今回を入れて、あと2回となりました。よければ最後までお付き合いください」

 

 

 壇上へ上がって、教室を一瞥いちべつし軽くお辞儀をする。それがその教師の講義開始の挨拶となる。

 

 講義室の造りは、やや横幅のある四角い部屋で、長辺の中央に教壇があり、そこを囲む扇状に椅子が並んでいる。

 基本的に机はない。

 なぜなら、講義を受けながらノートを取るという習慣がないからだ。

 

 薬学の実験室には、机が置いてあるらしいが、それは作業台としての役割が大きい。

 

 人によっては、1日の終わりごとにその日の講義内容を紙に書き残したりしているそうだ。

 

 

 さて、『創世学』というのは、簡単に言えば眠れる神が世界を作った時代を検証する学問だ。

 前世の世界とは違い、この世界は神話の時代に起こったことは全て歴史的真実であるとされている。

 

 魔術を使う上で重要となる“ルーン”は、世界のことわりを意味する文字であり、世界を作り上げる途中である神代かみよと密接に関わってくる。

 

 そもそも“ルーン”は精霊王と神が世界を創造するときに使われた理を示しているとされている。

 そのため、創世学は魔術師においての基礎教養の1つとなっていた。

 

 前世代の古代帝国の話ですらまともに残っていないのに、さらにそれよりも古い神代の話は、多くが口伝かもしくは記録系の魔具によってのみでしか確認できない。

 

 また神話の多くは物語的な側面を持ち、真実が上手く隠されていることもある。

 それらを読み解くのも『創世学』の一面というわけだ。

 

 

「さて、前回までは精霊王と原始精霊の誕生について講義をしてきました。

 今回は、少し、近年出てきた説を踏まえた話となります」

 

 

 確か前回までは「地、風、水、火、森、海」の各精霊王の誕生と、それぞれの眷族である精霊の関係、それから、太陽の精霊と星の精霊についての話が中心だった。

 

 

「精霊王と呼ばれる精霊は、主に6名ですが、最近の『創世学』では、もう1名の7番目の精霊王がいたというのが通説になりつつあります。

 その歴史から名を消された精霊こそが“野の精霊王”です」

 

 

 ああ、なるほど、例の説か。

 教室を見た感じだと、半分くらいの生徒は私と同じように知っているが、もう半分の生徒は興味があるようだ。

 ちなみに、シュリは私と同じなのか今の言葉に特に反応はない。反面、ルノエちゃんは初めて聞く説だったのか、興味深げに壇上に立つ教師を見ている。

 

 

「皆さんは、神話における創世の章を読んだことがあるならば、“荒廃の魔王”のことは知っていると思います。

 “荒廃の魔王”は神が眠った直後に、カルカチュアを襲った魔王と伝えられています。

 世界の長い歴史のうち魔王が出現は三度あるため、“最初の魔王”とも呼ばれる存在ですね。

 

 この“荒廃の魔王”の出現により、世界に悪魔と妖魔が生まれます。

 その辺りのことについては、また後日機会があれば語るとして、今回の話は『“荒廃の魔王”がどこから現れたのか?』という話です」

 

 

 要約すると、この“荒廃の魔王”は、原始の精霊王の7番目の存在であった“野の精霊王”が堕ちて、悪意に満ちた存在へと変貌したという話が続く。

 

 そもそも、神のもとに世界は調和をしており、そこに不和ふわは存在しなかった。

 

 しかし神が眠るとその調和が徐々に崩れだし、精霊王同士で些細なけれど致命的ないさかいが起こってしまう。

 結果として最も我の強かった“野の精霊王”が他の精霊王に戦いを仕掛け、“野の精霊王”は魔王という存在になったとされる。

 

 現代でも精霊が強い悪意を持つと、悪魔と呼ばれる存在に変化すると言われている。俗に“堕落”と呼ばれる現象だ。

 さらに言えば魔王というのは、ただ単純に力の強い悪魔の俗称でしかない。

 

 今回のように強い力のある原始の精霊王が堕落をしたなら、それは悪魔ではなく、魔王と呼ばれる存在になっただろうと考えられる。

 

 あまりに昔過ぎることなので、人類は誰も証言できず、当の精霊王や神代の時から存在する古き精霊たちが人類に対して、神代の歴史を教授することはない。。

 そして、これからも基本的にそうなることはないだろう。

 

 

「歴代の魔王のうち、“荒廃の魔王”だけが他の魔王とは異なり、あまり滅されたとは伝わっていません。唯一大地に封印されたとされるものがほとんどです。

 それらのことを総合的に解釈することで、“荒廃の魔王”が“野の精霊王”であったという説が成り立ちます。

 “荒廃の魔王”は、その正体が精霊王であったがゆえに大地へと封印されたのです」

 

 

 精霊は世界を守る存在であり、精霊王にいたっては世界の要と言える。

 精霊王ほどの存在が消えるとなると世界に対して大きな影響を与えてしまう。

 ゆえに、その存在を滅することをせず、身動きが取れないように封印されたと言われている。

 

 

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