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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
学術都市フェルベル編
119/146

15歳:「講義/堕ちた精霊王(1)」

 

 

 カンカンカーン、カンカンカーンと、今日最初の講義開始を知らせる鐘の音が、学院内に響き渡る。

 

 

「よっし、ぴったり!」

 

 

 私は鐘が鳴り始めると同時に講義室へと入った。

 講義の担当教師は、始業と同時に入ってくることはないから問題はない。

 

 

「『ぴったり!』じゃないの! ぎりぎりって言うの!」

「あははは、ルノエちゃんてば真面目さんだなぁ」

「わたしは普通だよ。ユリアちゃんってシッカリ者のくせに、変な所でルーズだよね」

「そんな私に付き合ってくれるルノエちゃんが好きだよー?」

「あうあう……」

 

 

 最近、私の身の回りで可愛い生き物が多くて困るな。双子やジルと離れることになる分、可愛いモノ成分が減ってしまうと思いきや、なかなかとっても充実しています。

 

 

 学院の授業は大きく「講義」と「師事」の2つにわかれる。

 

 「講義」は、主に1人の教師が不特定多数の学生を相手として事前に決めたスケジュールに沿って授業を行なう。

 ほとんどが講義室での座学であるが、授業によっては専用の実験室や訓練場を使った実技であったりもする。

 学院に入ったばかりの1年目、つまり1年生の間は基本的に講義を受けて、実力と知識を付けていく。

 

 前世でいうところの日本の大学のイメージに近い。もっとも必修科目もなければ、定期試験も特にない。

 試験がないならば、講義を受ける必要や勉強をしなくても良さそうに思えるが、そうはいかない。

 なぜなら、基礎が終わった2年目以降、「師事」に移る際に困ってしまうことがあるからだ。

 

 「師事」とは、特定の教師が受け持ってる「教室」に所属することで、その教師から専門的な授業を受けることだ。

 どの教師を師事するかは、完全に教師と学生と個人による自由契約となっている。

 

 そして、学院を卒業するための条件が、師事している教師の推薦と3人以上の教師から出される課題をこなすことだ。

 学生にとっては、まず師事する教師が重要になってくるし、教師の方も自分の名誉と実績のためにも優秀な学生だけを教室に所属させたい。

 

 学院1年目の講義は、教師と学生のお互いのアピール期間も兼ねている。

 

 

「えーと、あ、いたいた。おはよう!」

「おはようございます。お嬢様、ルノエ様」

 

 

 私は、彼が確保していてくれた席にさっさと座る。

 

 

「おはようございます、ウェステッド様。いつもありがとうございます。

 でも、わたしのことは、どうぞルノエと呼び捨ててください」

「そう言われましても……お嬢様の大事なご友人を呼び捨てなどできません」

「ルノエちゃんも、いい加減諦めちゃいなよ。シュリは自分で一度決めたら、絶対に曲げないんだから……」

「う~……」

 

 

 そう、目の前で笑顔を浮かべている青年はシュリ・ウェステッド、私たちの兄貴分だった少年だ。

 

 真正面に立つと170イルチ近い私が少し見上げるくらいだから、178イルチ位はあるだろう。

 全体的にほっそりしていて、いかにも学者肌の優男という雰囲気だ。

 

 茶色がかった黒髪に深い緑色の瞳に、昔の面影が十分残っている。

 ただ年相応に育った体には、成人男性特有の精悍さがでてきていた。

 

 シュリはフェルベル学院には2年前に入学しているので、私とルノエちゃんからすれば先輩になる。

 

 本来なら今から始まる講義に出る必要はほとんどないが、私と一緒に受けれるという理由だけで受講しているようだ。

 そこにはラブはなく、少しでも恩に報いる律儀な性格ゆえだろう。

 

 

 シュリはバーレンシア家の後見を受けて、学費から在学中の生活費など、一切の費用はバーレンシア家が払っている。

 

 そもそも、私が〈宝魔石〉を売ってお金を稼ごうとした最大の理由は、自分の分とシュリの分の学費を作るためだった。

 色々とあって、今のバーレンシア家はお金に関してはまったくと言っていいほど困っていない。結局、私の学費も実家が出している。

 

 

 義理ができてしまったので、ホランさんの『セールテクト輝石店』には10個ほど〈宝魔石〉を卸したが、その代金のほとんどは手つかずのままだ。

 1個あたり手数料を引いて大体60万シリルの儲けで、約500万シリル位は残っている。へそくりというよりも、隠し財産だなぁ。

 

 

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