15歳:「オースギ寮の住人たち(3)」
「ユリア殿、薬茶也」
赤っぽい褐色の鱗族の少女が、私の前に緑色のお茶を出してくれる。
名前はミロン・イエン、小柄だが獣人種の特徴的な引き締まった肉体をしている少女だ。
年は私より2つほど上だが今年入学したらしいので、まだ同じ学院1年生。学院では薬師専攻科に所属している。
「ユリアちゃん、それ本当に美味しいの?」
「この渋みが大人の味なのさ。慣れると美味しいと思うよ?
ミロンさんいつもありがとう」
「礼はいらない也。我の薬茶を喜んでくれるのはユリア殿だけ也」
ミロンさんが時々淹れてくれるお茶は、簡単に言えば抹茶のような味がする。
私としては、前世の日本を思い出す懐かしい味で普通に飲めるのだが、どうも他の皆には不評らしい。
徐々にだが最近は苦味も美味しく感じれるようになってきた。
それだけ大人に近づいたと言うことなのだろう、多分。
「そういえば、このお茶は牛乳や砂糖とか足すとルノエちゃんたちも飲みやすくなるかも」
「牛乳也可?」
「そうそう少し濃いめに抽出してね。牛乳と砂糖で割るんだよ」
「……ユリアちゃん、それ美味しい? セーも飲める?」
私がミロンさんに、抹茶ラテの作り方を説明している横から、可愛らしい声が聞こえてきた。
ラベンダー色の美しい髪と薄いエラを持つマーマンの少女。名前はセララセラ。
ミロンさんよりも小柄で、今年で10歳になるリリアと同じくらいの背丈しかないが、私と同い年の15歳らしい。学院では植物学者専攻科に所属している。
なんでも特殊な【先天性加護】持ちらしい。
いつも眠そうにしているが、食べ物と飲み物の話題への食いつき方が違う大食い魔人だ。
「う~ん、どうだろう。ミロンさんが入れてくれたままの状態で飲むよりは、ずっと飲みやすいくなると思うけど」
「……(じぃ)」
「セラちゃん飲んでみたいの? 今日の夜にでも作ってみようか?」
「……飲む(こくん) ユリアちゃん、ありがとう」
まぁ、なんていうか、可愛い生き物って感じなのだ。こう、ナデナデしたくなる感じ。
とりあえず、約束をすると興味がなくなったのか目の前の朝食を食べ始める。
その姿も小動物の食事を連想させる。
が、そんな可愛らしい食べ方とは裏腹に、セラちゃんの前には私たちの2倍以上の食事が用意されている。
しかも、それが見る見る減っていくのにセラちゃんの体は変化しない……不思議なこともあるもんだ。
「ほら、ユリアちゃんもさっさと食べないと、講義に間に合わなくなっちゃうよ?」
「あ、うん。精霊様に感謝を、いただきます」
思わずセラちゃんの食べっぷりを眺めていると、ルノエちゃんに注意される。
確かに、もう少し経つと講義開始前の鐘が鳴ってしまう。
略式で食事の挨拶を済ませ、私も自分の目の前に置かれたシチューに手をつけた。
「ユリアちゃん、あんまり焦って食べると喉を詰まらせるよ?」
「んお? だい、じょぶ、だよ」
口に物を入れたまま喋るのは淑女にあるまじき行為だが、問題はない……と思う。
そんな私を少しあきれたような目で見るルノエちゃん。さきほど部屋まで私を起こしに来てくれた子だ。
名前はルノエで、家名はないらしい。
黒い髪と瞳を持って、セラちゃんとは別の意味でとても可愛らしい生き物をしている。黒い髪のせいか日本人っぽくて、かなり私の好みに近い容姿だ。
ルノエちゃんも私と同い年で15歳になったばかり、同じ魔術師専攻科に所属している。
「もう、食べ終わったら、すぐに出ないと間に合わないかもよ?」
「んっくん、大丈夫、席を確保してくれるって言ってたから」
「……また席取りをお願いしたの?」
「ごくごく、ぷはっ。違うよ、向こうが勝手にしてくれるだけ、席を取るのが好きみたいだから気にしないでいいよ」
はぁ、となんだか呆れたような溜息をルノエちゃんが大きくついた。