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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
学術都市フェルベル編
117/146

15歳:「オースギ寮の住人たち(2)」

 

 

 火の季節の3巡り目の第2日。

 私が学術都市フェルベルにやってきて、そろそろ季節1つ分の時間が経とうとしている。


 15歳になった翌日、事前に準備をしていた予定通り、王国立フェルベル学院の魔術師専攻科に無事入学した。

 

 ただ、入学するまでには少しばかり面倒なことがあった。

 入学試験の際、私の能力が魔術師専攻科に入るための基準に到達していなかったのだ。

 

 魔術や学問に関する知識試験は問題がなかったのだが、魔術実技の試験で素質なしの判定を受けてしまった。

 試験の課題実技が「火の玉で少し離れた先にある的を燃やす」というものであったことがまず1つ目の理由だ。

 

 【一角獣の加護】を秘密にしているために原因を説明する訳にもいかず、試験の結果として、すっかり理論だけの「おちこぼれ魔術師」とみなされてしまった。

 

 そのため、魔術師専攻科ではなく、数理学者専攻科や魔術学者専攻科といった実技を伴わない学科を強く勧められた。

 しかし、将来的に使い魔ファミリアー持ちの魔術師になるためには、魔術師専攻科に入る必要があった。

 

 

 そこで、学院の規則にあった特別入学制度というのを利用して入学することにした。

 

 簡単にいえば、学院公認の裏口入学みたいなものだ。

 入学支度金とは別に、特別免除金という名目の寄付金を私うことで入学を許可される制度だ。

 

 私としては、別に、魔術師の資格が取れるならば、フェルベル学院にこだわるつもりなかったが、いくつかの事情が重なり、無理やりにでも入学することになったのだ。

 まぁ、結果として前世ぶりの学生生活を送っている。

 

 

「おはようございまーす」

 

 

 食堂に入るとオースギ寮のメンバーが全員揃っていた。

 

 

「お、おはようございますっ……」

 

 

 ルノエちゃんは、私と目が会うとさっきのことを思い出したのか、ぎこちない動きで視線を外す。

 あれで本人は、自然な流れで向きを変えてバレていないつもりなんだろうな……まったく可愛いもんだ。

 

 

「お早う也」

「……(こくり)」

「おはよう。ユリアちゃんが最後だよ。ほら、さっさと座って」

 

 

 ルノエちゃんの挨拶で他の3人もこっちを向く。

 これは、私のお世話になっているオースギ寮が数少ない規則の1つとして、「食事は出来るだけみんな一緒に」という言葉を掲げているからこその光景だろう。

 

 

「すみません、少し昨夜遅くまで本を読んでいたので、寝坊しました」

「まぁ、若いからって無茶をして……」

「そういうタマコさんだってまだまだ若いじゃないですか」

「ふっ……まだまだ、とか言われているようじゃ、本当の若さには敵わないんだよ」

 

 

 軽く遠い目をしつつ、私の前にパンを配ってくれる。

 タマコさんは、爪族のつまり猫っぽい獣人で、年齢は内緒らしいがぱっとみでは20台半ばくらいに見える。

 黄色がかった茶色のストレートの長い髪、ピンと三角形にとがった猫耳、スラリとした尻尾がスタイリッシュさを演出している。

 

 本名はタマコ・オースギさん。

 私がお世話になっているオースギ寮の寮母さんだ。

 

 

 オースギ寮は、寮を名乗っているが建物自体はタマコさんの家であり、私たちはタマコさんの家に下宿をしているような状態と言える。

 学院が運営する寮もあるらしいのだが、入寮を希望する生徒の数に対して寮の部屋数が圧倒的に足りないらしい。

 

 そこで、寮にあぶれた者は、街の宿屋に長期滞在をするか、下宿できる家を探す。

 貴族の子息の中には、最初から高級な宿屋で当たり前のように長期滞在にする人もいるらしいけど。

 

 オースギ寮もそんな寮代わりの下宿先の1つで、オースギ寮というのは半ば通称だ。

 

 ただ他の寮や下宿先とオースギ寮が違うのは、何かしらの訳あり学生が入居してくることが多いようだ。

 

 

 私もそうだが、今食堂にいる全員は何らかの事情を抱えていることを、短くない付き合いの中で察していた。

 

 

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