10歳:「お祖父様の本音(3)」
ドスドスッ、バンッ!!
荒い足音が聞こえたかと思ったら、応接室の扉が勢いよく開け放たれる。
「ケイン……?」
「……お父様……」
部屋に乱入してきたのは、お父様こと、ケイン・ガーロォ・バーレンシアだった。
「声をかけたら泣かれたって、いつの話ですかっ!!」
あ、ツッコムところはそこなんだ。
「……あれはもう30年以上は前の話になるか?」
お祖父様も律儀に指折り数えて返事をする。
いや、そういうことじゃないと思うんだけどな。
「そんな子供の頃の記憶なんて残っていませんよ!」
お父様が至極まっとうな意見を言う。
というか、今になってやっと納得したけど…………お父様とお祖父様って、やっぱ血のつながった親子なんだなぁ。こう、にじみ出る雰囲気がよく似ている。
二人が並んで言い争い(?)をしているのを見て、私はぼんやりとそんな感想を抱いた。
「旦那様、ケイン様……喉がお渇きではないでしょうか?」
そう言ってアギタさんは、蒸留酒のボトルとグラスを2つ取り出した。
ああ、つまりは、これ以上は2人とも素面じゃないほうがいいという判断か……できる執事は違うな。
「いただきましょう! 父さんも飲んでください!」
「う、うむ……」
お父様の勢いに押されて、お祖父様がうなづく。
アギタさんは手早く水割りを作って、お父様とお祖父様に手渡す。
「なんだか、変にうじうじしていた過去の僕に乾杯!」
「…………」
呆気にとられるお祖父様を横目に、お父様が一気にグラスの半分を煽るようにして飲む。
「父さん、話をしましょう」
「……いったい、何の話をするつもりだ?」
手元のグラスを持て余しながら、お祖父様が目の前で息巻くお父様に問い返す。
「とりあえず、すべてを……今の僕は、過去の僕を笑い飛ばしてやりたい気持ちなんです。
……父さん、僕も父親になりました」
「ああ……そうだな」
「けれど、今でも父さんのことはよくわかりません。それでも、わかったことが一つだけあります」
「一つだけわかったこと?」
「父さんがいたから、今の僕がいます。もう泣くだけしかできない子供じゃありません。
だから――」
呼吸を一拍。
「――30年間分の話をしましょう」
そのお父様の言葉を、お祖父様はゆっくり噛み締め、そっとグラスに入っていた薄い琥珀色の液体で流し込む。
「長い話になるぞ……」
「構いません……今日はきっと僕と父さんにとって最後のチャンスなんです」