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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
109/146

10歳:「お祖父様の本音(2)」

 

 

「そもそも、お祖父様は、なぜ伯父様ではなくお父様にガースェを譲ろうとされたのですか?」

「それは……」

 

 

 会談が始まってから初めて、お祖父様が返事を言いよどんだ。

 

 

「ケネアお祖母様と、いえ正確にはケネアお祖母様の生家と関係がありますか?」

「……ケネアを知っているのか? その上で彼女をお祖母様と呼んでくれると?」

「ええ、お父様を産んだ方ですから、私にとっては血のつながったお祖母様になりますよね?

 もちろん、ルヴィナお祖母様のことは、ただお祖母様とだけ呼びますけど」

 

 

 そういえば、お母様のご両親については会ったことも話を聞いた覚えもない。

 王都ではなくて、別のところに住んでいるんだろうか?

 

 

「ふぅ……そんなことまで調べてきた。ならば、想像はついているんじゃないのか?」

 

 

 深く溜め息を吐いて、お祖父様がどこか挑むような眼差しで私を見る。

 そこはすでに孫を見る優しい目ではなく、対等な立場を持つ相手との会談に臨む目。

 本人は気づいていないが、椅子の肘掛に置いたお祖父様の手が強く力が入っていることがわかる。

 

 

「ガースェを正当な血筋に……ケネアお祖母様の家に戻すため、ですか?」

「その通りだ……」

 

 

 お祖父様の眼差しが柔らかくなり、両肩から力が抜ける。

 シズネさんから教えてもらった情報によれば、お祖父様はケネアお祖母様の生家が途絶えたことにより、地位を継いだ形になる。

 

 

「ガースェを継いでしばらくは、慣れない仕事で作業は遅く、人からのやっかみなどで心身ともに消耗しては、さらに仕事が滞る……家に帰らず仕事場に泊り込むこともままあった」

 

 

 客観的には人の不幸で蜜をなめた形だ。

 例えそれが不幸な事故の結果だとしても妬む人はいただろう。

 

 

「ケインをこの手に抱いたのは、ケネアが生きている間に両手に満たない程度しかない。

 今思えば、当時もっとも辛かったのは、家族を亡くしたばかりのケネアだったのだろう。

 

 出産と同時に、ケネアが死の気配を漂わせるようになった。

 私はガースェとしての仕事を傍らに医者や魔術師を片端からあたって、少なくない礼金を用意しては、ケネアの治療を頼んだ。

 いずれも効果はなく、ケネアの死は変えようがなかった。

 私がそれに気づいたのは、死ぬ直前にあったケネアに、ありがとうと礼を言われた時だったよ」

「ありがとう、ですか?」

「ああ、新しい家族ケインを授けてくれて、私を独りぼっちにしないでくれてありがとう、だ。

 ろくに家にも帰らず、仕事に明け暮れていた男に対して、独りじゃなかったからと……当時、ケネアと一緒にいたのは、まだ言葉も喋れない赤子だけだったのに。

 

 ケネアを失って初めて、私はケネアのことを愛していたことに気づいた」

 

 

 当時を思い出しているのか。お祖父様は私の方を向いているが、私のことを見ていない。

 そして、ポツリポツリと呟くようなお祖父様の懺悔ざんげは続く。

 

 

「……昔、ケインに声をかけたら、泣かれてたことがあった」

 

 

 声をかけたら? お父様が泣いた?

 

 

「その時、たまたま屋敷を訪れていたルヴィナがケインを抱きしめたら、ぴたりと泣き止んでくれて……ああ、母親を欲していたのだろうと思ったのだ」

 

 

 それって、つまり、お父様が2歳とかの頃の話じゃ……。

 

 

「彼女が私と付き合っていた頃に子供を授かってたという話を聞き、その真偽を確かめるつもりだったのだが、それよりもケインを抱きしめてくれたルヴィナへ、その場でプロポーズをしていたよ。

 もちろん、ケネアのことは愛していた……けれど、私が恋をしたのはルヴィナだった。

 そしてそのとき誓ったのだ。ガースェの家をあるべき元に返そうと」

 

 

 フフッと自嘲するかのようにお祖父様が笑い。

 

 

「私は、ケインの良い父ではなかった。だが、せめてケネアの血筋にガースェを戻すことだけが願いだったが、それも叶いそうにない。

 ガースェを継ぐ家の当主としても良い当主ではなかったということだな」

 

 

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