10歳:「ペルナちゃんの秘密(3)」
「さて、大まかな話はロイズさんから聞きました。えーと、お姉ちゃんがペルナちゃんで、弟君がペート君で良かったかな?」
「はい」「お、おう」
お父様を前に2人とも緊張した面持ちだ。
ペルナちゃんの目を治療したあと、ほとんど有無を言わせない状態のまま、2人を屋敷まで同行してもらい……一言の合意がなければ、ほとんど拉致に近い形で。
ひとまず入浴させ――ペルナちゃんは私が、ペートはロイズさんが入れた――、服を浄化の魔術で綺麗にし、着替えたところで、お父様が帰宅した。
先にロイズさんがお父様に事情を説明に行き、その間私と2人は応接室でアイラさんが入れてくれたお茶を飲みながら待機。
私が少女用の服に着替えて、改めて自己紹介をしたことで、ペートもやっと私が女性であることを認めたようだ。
誰も、変態みてぇとか言われたので軽く脅したりなんかはしていませんよ?
最近は自分が男でいたいのか、女になりたいのかがあやふやで困る。
正直なところ、男としての心を意識するあまり、身体が女であることを否定できないという、自分でもよくわからない状態だ。
そんな私の内面的な葛藤は横に置いておくとして、ちょうど1杯目のお茶が飲み終わったタイミングで、3人揃ってお父様の書斎に呼ばれた。
そして今、部屋の中には、お父様、ロイズさん、ペルナちゃん、ペート、私の5人がいる。
「2人が望むなら、僕が君達の後見人になるし、この屋敷に部屋も用意しよう」
その言葉にペルナちゃんとペートが、それぞれの視線を私に向ける。視線の主な内訳は、戸惑いと興奮と不安が5対3対2ってところだろうか。
少し助け舟を出そう。
「お父様、急な話で2人とも驚いていると思います。そもそも今日は一度に色々ありましたから。
ひとまず、しばらくうちに滞在してもらって、後見とか今後の話は追々決めていく感じでどうでしょう?」
「ふむ、ユリアがそう言うならそうしようか。2人ともそれでいいかな?」
「は、はい! ありがとうございます」「あ、ありがとうございます」
お父様の提案に頭を深く下げて、お礼を言う。
そのあと軽く私のほうに見てきたので微笑みを返す。
「ところで、マリナやリックとリリアに2人は紹介したのかい?」
「えっと、一応簡単に自己紹介だけは、詳しい話はしていません」
とりあえず、お父様に事情を話すのが先だと思ったからな。
リリアやジルがすごくこっちの方を気にしていたけど、あえて無視した。
「それなら、ロイズさん2人を居間に連れて行って、簡単に紹介とこれから滞在することを、皆に説明してきてくれますか?」
「ああ、わかった」
「ユリアは残りなさい、少し話したいことがある」
「はい」
ん?
別に怒っている雰囲気じゃないけど、なんだろう?
ロイズさんが2人を連れて出て行き、ワンテンポをおいてお父様が口を開いた。
「まぁ、ユリアのことは信頼しているし、危険なことと悪いことさえ、しなければいいと思っている」
放任主義と言う言葉があるけど、お父様の私に対する扱いは、それに近い。
私は肉体こそ子供のものだが精神が成熟した大人であると認められている。
簡単に言うなら、1人の成人として見られている。
それもこれも、私が前世の記憶があるということを信じてもらえたからだ。
確かにそれを証明するために、農具の改良なんかもやったけどな。
「はい。とても嬉しいです」
何度か言ったことだが、改めて感謝の気持ちを伝える。
この人の子供として生まれたことを幸せだと思っている。