ペルナ:「光の消えた世界で(2)」
ケインさんは、なんていうか、すごい人でした。
ケインさんの喋り方はとても柔らかくて、きっと良い家の生まれなんだと思います。
けれど、わたしたちが両親のいない孤児だと知って、さらりと謝ってきてくれました。
本当に悪いことを訊いてしまったと思っていて、謝ることが普通のことだと考えている謝り方でした。
それは、とてもすごいことです。
わたしが知っている生まれが良いとされる人たちは、わたしたちのことをまるで野良犬のように扱います。犬ではありません、野良犬です。
ケインさんからは、わたしたちを普通の人として見てくれていることが伝わってきます。
ペート君の仕事について尋ねたのですが、うまく誤魔化されてしまいました。
次になぜかペート君が買ってくれたお土産の話になり、ケインさんが変に動揺していました、どうしてでしょう?
その後、ペート君が帰ってきて、大事な話があると2人で部屋から出て行ってしまいました。
1人部屋に残ったわたしはケインさんのことを考えます。
部屋の出入り口での会話、気がつけば、ケインさんを部屋に招き入れていました。
普通、知らない人はもっと警戒するべきです。
けれど、ケインさんに対しては、そのような気持ちが一切湧きませんでした。
一目惚れというやつでしょうか?
いえ、見えてないのですから、一聞き惚れ?
ん~……しっくりきません。ちょっとなにか違います。
好きとか嫌いとかじゃないのです。
あえていうなら――“安心感”でしょうか?
そこにいて当たり前で、この人はわたしたちを害することはないという、そんな気分にさせてくれる人です。
ケインさんが、わたしを騙そうとする詐欺師なら、わたしはすっかり騙されてしまったことになります。
けど、それでもいいかなという思いもするのです。
不思議な気持ちです。
しばらくして、ケインさんはペート君とグイルさんを連れて戻ってきました。
グイルさんが買ってきてくれた〈クエシャの実〉を飲みながら、ケインさんと色々なお喋りをします。
戻ってきたペート君は妙にケインさんになついていました。
その2人の様子を聞いていて、なんだか、ちょっとムッとしてしまったのは内緒です。
なぜなら、ペート君とケインさんのどっちにムッとしたのかが、わたしもよくわからなかったからです。
その翌日、ペート君が、わたしに新しい服を買ってきてくれました。
嬉しそうにするペート君に応えるべく、早速その服を着ていて、ペート君にお礼を言います。
わたしが喜ぶことで、ペート君が喜んでくれます。だから、しっかり喜びます。
と、そこにケインさんがやってきてくれました。
さらりと服のことを褒めてくれましたが、嬉しいと言う気持ちより、なんだか恥ずかしい気持ちが先に来てしまいました。
ケインさんは、きっと、もっと綺麗な服を着て可愛らしい格好の女の子をもっと知っているはずです。
それなのに、わたしを見て当然のように褒めてくれることが、申し訳ないというか、いえ、嬉しいことは嬉しいのです。自分の気持ちがうまくまとまりません。
その上、ケインさんは、わたしに香水をプレゼントしてくれました。
以前、わたしが小さくお母さんがまだ元気だった頃、お母さんはお父さんと会う時にだけ香水を使っていました。
なんだかそれが大人の女性という感じがして、すごく憧れていたのを思い出します。
色々と緊張して、ケインさんに何度もお礼を言ってしまいました。
……けど、香水をくれたのは、もしかして、遠まわしに変な匂いがすると言われたのでしょうか?
ペート君には悪いけど、今日から、できるだけ身体を水で綺麗に洗いたいと思います。