3歳:「森へ行こう!(2)」
家の裏庭は、正門側の表の庭より何倍も広い。
馬で駆け回れるくらいの広さがあり、厩舎や小さなハーブ畑などが設けてある。
その裏庭から森の川へ通じる小道があり、オレはその入り口に立っていた。
一度後ろを振り返って、左右を確認……んー? 確率は半々ってところか。
何の確率かというと、アイラさんがオレを見守るためにこっそり付いてきている確率だ。
隠れている人の気配が分かる、なんていう能力は持っていないため、あくまで予想でしかないけど。
「まぁ、いっか。よし、いくぞー」
と、勇んで森に入ってすぐ、木の根元で四つん這いになっている男性を見つけた。
「あれ? ロイズさんだ」
「おう、お嬢様か。……ん? どうしたんだ、1人か?」
オレが声を掛けると、立ち上がったロイズさんがこっちに振り向いて、周りを見回し、怪訝そうな顔をした。
どうやらオレが1人でいることが気になったようだ。
「おサンポです。わたしももう3才だから、おサンポは1人でもできるのです。
ロイズさんは、ここで何してるんですか?」
「俺は、ここに生えてる薬草を採ってたんだ」
「やくそう?」
「ラルシャっていう草で、葉が薬になるんだ。病気の時に飲んでよし、傷に塗ってよしの万能薬だな。
普段から、茶葉と一緒に淹れて飲むと健康にもいいな」
〈ラルシャの葉〉といえば、『グロリス・ワールド』で最もよく使われる回復薬の〈ハイランクポーション〉の材料だった。
また一つ『グロリス・ワールド』と同じ部分を見つけ、少し感慨深いものがある。
万能薬と言われるぐらいなら、覚えておいて損はなさそうだ。
けど、一見して、そこらの雑草との違いが分からない。
「その葉っぱはどうやって見つけるのですか?」
「こいつは独特な匂いがするから、すぐに見分けがつくんだ。ほら、嗅いでみな」
「……くちゃっ!!」
ピーマンとパセリを混ぜて、何百倍にも臭くしたような匂いだった。鼻の中がとてつもなく臭い。
思わず顔を背けたオレを見て、ロイズさんが愉快そうにイイ笑顔を浮かべている。
いい年して、イタズラ小僧かっ!!
味は分からないが、匂いからするとかなり苦そうだ。
ゲームのキャラには、よくガブ飲みをさせていたが……かなりの拷問になりそうだな。
「ま、こんなもんでいいか。俺は屋敷に戻るけど、お嬢様はどうする?」
「わたしはお昼ごはんを食べたばかりなので、もっとおサンポしてから帰ります」
「そっか、気をつけるんだぞ」
「はい!」
当初の目的のためにも、ここで帰るわけにはいかないのだ。
小川には近づかないという母親との約束を守るとして、目的地は森の中の少し開けた場所にしよう。