第5話 天才少女の実力
一人、地面を見つめてしょぼくれていた少女に、俺は改めて向き直った。
「本当に、組まないか? ただ、俺もそこまで資金に余裕があるわけじゃない。それでもいいなら、一緒にパーティーを組もう」
さっきまでの絶望が嘘のように、少女が弾かれたように顔を上げた。
「おお!! わっちと組みたいとは、見る目があるのぉ〜〜!!」
急に尊大な態度に戻り、腰に手を当てて胸を張る。
「わっちは頭脳明晰! そして、魔法も強すぎるがゆえに追放されやすいのでな!! 絶対に正解じゃぞ!!」
きたきた、これだよ。
いい感じじゃない??
だが、ここは冷静にならなければ。
まずは実力の確認だ。
「……疑っているわけじゃないが、一応、実力を測らせてくれ」
「もちろんなのじゃ!!」
「ああ、そういえば名前を聞いてもいいか?」
「わっちの名は、ロリカじゃ!!」
見た目通り、ロリみたいな名前だな。
「俺はダイキだ。よろしく」
「よろしくなのじゃ、ダイキ!」
こうして、俺とロリカは実地試験のために森へ向かった。
いつもスライムを小突いているエリアから、さらに数分。草木が深く、空気の密度が変わる場所まで足を踏み入れる。
そこで俺たちの前に現れたのは、全身を赤鱗で覆った、トカゲを巨大化させたような生物だった。
「――あれは、ファイヤードラゴンじゃな!!」
ロリカが教えてくれた。
大きさは大型犬より一回り大きい程度だが、口から漏れる熱気と鋭い眼光には、本物の怪物の威圧感がある。俺は反射的に身構えた。
「……じゃあ、ロリカ。こいつを倒してみてくれ」
「何を言っておるのじゃ!! わっちは戦闘タイプではないぞ?」
「え」
おいおい。
……まあ、そうか。固有魔法といっても攻撃だけってわけにはいかないか。
「でも安心せえ。わっちの素晴らしい頭脳と魔法があれば、百人、いや千人力じゃ!!」
「……で、その魔法はなんなんだ?」
「聞いて驚くのじゃ!! わっちの魔法は、【千里眼】じゃ!!」
「……何それ?」
「貴様、それを知らぬだと!?」
ロリカは心底信じられないといった様子で、その特徴的な瞳を見開いた。
「わっちのこの両目でな、未来が見えたり、敵の弱点が見えたり……とにかく便利なのじゃぞ!!」
おお、やっぱり強そうじゃないか。
未来が正確に見えるなら、格闘技の経験から言っても、実力差なんて簡単に埋められる。
「どんな感じで未来が見えるんだ?」
「常に何かが見えるわけではないのじゃが、見える時は見えるのじゃ。インシュピレーション……って感じじゃな!」
インスピレーション……。
ツッコミたい気持ちを抑える。本当に頭脳明晰なんだよな?
「……敵の弱点は普通に見えるぞ!!」
「それは便利だな」
会話の最中、ファイヤードラゴンが苛立ったように火花を散らし、こちらを威嚇し始めた。
仕方ない。なぜか俺の実力テストになっている気もするが、俺が戦うか。
「まあ、ヌシなら魔力を纏えば、ファイヤードラゴンなんて一発じゃろ」
「……そうなの?」
スライムと変わらないのか?
少し緊張しながらも、俺は全身に魔力を纏った。
瞬間、ドラゴンが火を吹きながら突進してくる。
左へ一歩。炎を紙一重でかわし、無防備な腹部へ右フックを叩き込む。
ドゴォッ!!
ドラゴンはあっけなく数メートル吹き飛び、木に激突して絶命した。
「まじか……」
魔力を纏うと、ドラゴンですらワンパンか。
どうやら、ロリカの言っている「相性」や「格下」という判断は正しいらしい。
「おお!! すごいの〜〜!!」
ロリカがパチパチと拍手する。
素直に褒められると、俺の魔力量がミジンコで魔法も使えないことは、絶対にバレたくないという見栄が生まれるな。
「……次はそっちの番だぞ。予知してくれ。まだ現れるんだろ?」
「任せておれ。わっちにはちゃんと見えておる!! 今のヌシの攻撃で、周りのドラゴン達が戦闘態勢に入ったぞ。――来るぞ、2匹! 『右』からじゃ!! いきなり噛み付いてくるから気をつけるのじゃ!!」
なるほど、完璧なナビゲートだ。
右側。噛み付き。
それさえわかっていれば、炎への警戒を解いてカウンターに専念できる。
俺は右側へ意識を集中し、ドラゴンの襲撃を待った。
森がしんと静まり返る。
来るか……。
「……ッ!?」
衝撃。
いきなり『後ろ』から噛み付かれ、俺の体は前方へ吹き飛ばされた。
木に激突したが、魔力纏いのおかげで痛みは少ない。だが、驚きは絶大だった。
「な、何が起こった!?」
振り返ると、そこには2匹のドラゴンがいた。
――『左』側からやってきていた。
「おい!! 全然違うじゃねーか!! 右側じゃねーだろ!!」
「う、うるさいのじゃ!! 2匹という数は当たっておったじゃろ!! わっちは右と左がわからんだけじゃ!!!」
「箸を持つ方だ!!」
「はしってなんじゃ!!」
「フォークを持つ方だ!! どっちで持つんだ!!」
「もちろん右で持つに決まっておるではないか!!」
ロリカは堂々と右手を差し出した。
「……わかってんじゃねーか!! 本当は予知がうまくいってないんじゃないのか!?」
「う……。人には間違いだってあるのじゃ!! それに、未来予知は難しいのじゃぞ!?」
逆ギレかよ!!
とりあえず、俺は襲い掛かる2匹をさっきと同じ要領で片付けた。
「おお!! 無事に倒せたな!!」
満足げに頷くロリカ。
……どうやら、こいつの未来予知、かなり怪しいな。
本当にこいつをパーティーに入れていいのか?
だが、待てよ。
数は当たっていたし、ドラゴンの生態知識もありそうだ。
それに、人付き合いが苦手な俺でも、ロリカの傍若無人な振る舞いは、不思議と嫌な感じがしなかった。
こいつに俺が殺されることもなさそうか。
追放させてしまった罪悪感も、まだ少し胸に残っているしな。
初めはメンバーの出来が悪いってのがテンプレなのか。
「……じゃあ、パーティーを組むか」
「おお!! やっとわっちの実力がわかったのじゃな! 生憎と、わっちは金がない。ヌシが面倒を見るのじゃ!!」
「リーダーは俺、ってことだな」
こいつにリーダーを任せるわけにはいかないし、ガキの下に付くのも御免だ。将来への投資だと思えばいい。
こうして俺とロリカの生活が始まった。




