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第4話 天才少女を追放する

 退職代行ビジネスを始めるために、俺はまずパーティーの仕組みについてノリアを質問攻めにした。相変わらず口は悪かったが、彼女は色々と教えてくれた。


 パーティーメンバーはギルドで正式に登録した冒険者でなければいけないらしい。その点はクリアだ。ただ、秩序を保つためにルールは厳格だ。メンバーが脱退するには「互いの合意」が必要で、一方的な通告は無効。仲間同士の殺し合いも御法度。破れば厳罰が待っている。

 さらに、リーダーはメンバーの面倒を見る義務がある。だからこそ、簡単に人数を増やせないし、ましてや「ポンコツ」はいらないというわけだ。


「でも、そんなこと聞いてなんのメリットがあるんでやんす? ウチに会いたい口実とかでやんすか?」

「違いますよ。まあ、色々考えがあるんです」

「勘でやんすけど、なーんか、バカな考えしている気しやすけど……?」

「とりあえず、教えてくれてありがとうございます」


リーダーはポンコツを追放したいが、表立って言えばパーティーの不信感が強まり、いい人材が集まらなくなる。


だからこそ、俺がリーダーの追放の手伝いをするのだ!!

 ……あれ、退職代行って弱者のための制度だったような。まあ、それは日本の話だ。異世界では別の話。俺は強い者の味方だ!

それに、退職代行ってなんか捕まってたような……まあ、いいか!!


 なけなしの金でポスターを作り、「パーティーに不満がある方へ。まずは相談から」という文言で【退職代行】のポスターを貼りまくった。飢えに耐え、毎日スライムを狩りながら待つ。

 そしてある日。ついにポスターに「相談希望」と書かれていた。


 指定時間に行ってみると、そこにはイケメンで強そうな男がいた。俺は反射的に、全身に魔力を纏った。


「こんなポスターを貼るなんてどんな人物かと思ったけど、魔力を纏える実力だったのか!! 僕もできないから尊敬だよ! 退職代行ってふざけてるのかと思ったけど、わりかし本気なのかな?」


 どうやら魔力を纏うのは難しいらしい。交渉を有利にするため、これからも人前では纏おうと思う。量がミジンコサイズなんて、決して言えない。

あと、普通に人と話すのは苦手だが生きていくためにはやるしかない


「いつでも、真剣ですよ」

 俺は作り笑顔で握手をし返した。


「早速本題に入るけど、退職代行って、リーダーに向けて書いてるよね?」

「そうですね。あなたのパーティーにいらない人材もいるでしょう。ただ、簡単にクビにできないでしょうから」

「そうなんだよ!!! 簡単に切り捨てても評判に悪影響だろ?? 勝手に追放するわけにもいかないしさ……罰則厳しいし」


 話はトントン拍子に進む。


「でも、何の目的でそんな物好きなことをする? 言い方悪いけど、ポンコツ集めるようなものだろ?」

「まあ、自分としましても、パーティーメンバーを探してみようかなって。自分は評判を気にしないので、いつでもクビにするつもりですし」


 本当は俺だってズルいのさ。日本には『追放もの』っていうテンプレがあってな、追放者を集めていけば異世界生活がうまくいくんだな、これが。読んだことはないから知らないけど、絶対これがテンプレだ!

まあ、俺だけが知ってる金持ちになる方法みたいなものさ


「魔力纏えるくらい強いんだから、誰だって手に入りそうなものだけどな〜〜」

「まあ、そうだといいんですけどね……」

 量が極小で魔法も使えないから誰も寄ってこないんだよ!!


「でも、退職代行それってどうやるの?」


 イケメン剣士の問いに、俺は営業スマイルを深めた。


「まず、こちらからの提案としましては、私が『追放したい人』と新しくパーティーを組みたいと言い出します。あなたはあらかじめ、その人の代わりとなる人材を見つけておいてください」

「なるほどな!! クビにする口実ができるわけか。ウィンウィンって形なら喧嘩にもなりにくいし、僕の評判にも影響しない……!」

「ええ。追放された側も『他から需要があったから仕方ない』と納得せざるを得ません。実際に僕が組むかどうかは、また別の問題ですから」

「なるほどな。意外とよくできているな。……ただ、いくらだ? ポンコツを預かるようなもんだろ?」


 ここは勝負どころだ。想定するテンプレの展開なら、引き取る人材は実はポンコツではないはず。欲張って破談にしては元も子もない。俺は、一ヶ月分の家賃額を提示した。


「その値段でいいの!? 逆に怖いよ!! 名声も守れるのに!!」


 なぜか驚愕され、結局二十万ゼニーもらえることになった。


……これ、あってるよな? ただのポンコツを引き取る約束じゃないよな? 不安でその夜は快眠できなかったが、転生者はテンプレ通りに生きれば幸せになれるはずだと自分に言い聞かせた。


 二日後。待ち合わせ場所に行くと、依頼人の剣士がいた。

 そして少し離れたところに、一人の少女が立っていた。

 背丈は俺の肩にも届かない。小学校低学年のような華奢な体型だが、顔は可愛い系だ。艶やかな黒髪と白い肌。何より特徴的なのは、時計の文字盤のような幾何学模様が浮かぶ、神秘的な緑色の瞳だった。


「彼がね、どうしても君と組みたいって言うんだ!! どうかな?」


 剣士は優しく、そして冷たく言い放った。少女は俺をじーっと見つめる。


「それに、ここより彼のもとで組んだほうがうまくいくと思うんだよ。何せ、彼は魔力纏いを使いこなす達人だからね!!」


 有無を言わせぬ圧力。遠回しな『お前はいらない』という宣告。

 少女はすべてを悟ったように黙って頷いた。互いの紋章をかざし、同意のもとにパーティーが解体される。同意と言いつつ無理矢理感はあるが、一応はグレーゾーンというやつだろう。剣士は満面の笑みで俺に金を握らせ、消えていった。


 ……ここまでは思った以上にすんなりいったな。

 

残された少女は一人、しょぼくれていた。これからが本番だ。正直、こんな小さな子をいじめているような罪悪感で胸が痛むが、俺の直感は「こいつは悪い奴じゃない」と告げている。ノリアの時は外したが、今回はどうだ。


「で、どうする?? 俺と……パーティー組むか?」


 声をかけると、少女は鋭い視線で俺を射抜いた。


「嘘はいらん!! 組む気などないくせに!! ポスターを貼っておるところをみたことがあるぞ。アコギな商売をしおって」


 バレてた! しかも追放された自覚も完璧にある。そして、話し方が少し変だ。


「じゃあ、どうする? ギルドにチクるか?」

「いちいち、チクリなどはせん!! それに、慣れておるわ。これで三回目だしの」

「さ、三回目……?」

「このようなよくわからん形で追放されたのは初めてじゃが。変に気を使われた分、良しとするか」

「ご、ごめん……」

「気にしておらんわい!! こんな天才のわっちを追放するとはいい度胸よ。全く!! 奴らは自然と不幸になるじゃろうがな!!」


 こいつ、自分のことを『天才』と言い切ったぞ。

 追放されるのが三回目というのは、普通なら地雷物件だ。だが、俺は知っている。これこそが「最強のポンコツ」が集まるテンプレだということを。


天才でなければ、本物の大バカだ。

異世界にそんな大バカがいてたまるか。


 俺の答えは決まった。





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