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第2話 男の価値は大きさで決まる

 ギルドの裏庭には、軽自動車ほどもある巨大な水晶が鎮座していた。


「じゃあ、ここに手をかざしてみてくだせ――っす!!」


 ヤンキー受付嬢に促され、俺は恐る恐る水晶に右手を触れた。 すると、水晶の底のほうが、ほんの僅かに白く濁った。


「おお……!」


 思わず声が出る。これが魔力ってやつか。

 日本にいた頃にはなかった未知のエネルギーが自分の中に宿っている。言葉や文字が理解できるのも、この魔力が身体に適応したおかげだろうか。

 なんだかんだ言っても、やっぱり俺は「転生者」なんだ。


 そんな感動に浸る俺の横で、嬢が水晶を覗き込み――。


「ぶっ……!! ギャハハハハハ!! お、おにーさんの魔力、小さすぎっす!! 使いもんにならないくらい極小っす!! 正直、今まで見てきた中で間違いなくワースト1位っす!!」


 腹を抱えて爆笑し始めた。

 ……待て。その言い方だと、なんだか魔力じゃない『男としてもっと大事なところ』をディスられている気がしてならないんだが。


「そ、そうなんですか……?」


「でも、一つだけ褒めれるとこあるっすよ!!」


 嬢が涙を拭いながら付け加える。もういいよ……俺のメンタルとアソコはもうミジンコ以下なんだ。


「……なんですか?」



「魔力の『質』。これだけは異常にすごいっす!! こんな綺麗な質、見たことねーっす!! 質が高ければ、魔法を細かく制御したり、色んな技に応用できるはずっすよ!!」



「おお、マジか!」


 取り柄、あった! さすが格闘技やテニスで「技」を磨いてきた俺だ。質に関してはエリートだったらしい。


「あ!! でも、肝心の量がゴミなんで、何の意味もないっすね!! テクニックで誤魔化そうとしても、ちいせ〜男は意味ねーっすね!  どんまいっす!!」


 こいつ、上げてから落とす天才かよ。

 俺は虫の息になりながら、一番肝心なことを聞いた。


「あの……量と質の話はわかったんですけど、魔法ってどうやって出すんですか?」

「ああ、そうでいやがりましたね!! 普通の転生者はコツを教えるまでもなく出せるもんっすよ。適当にグッと力んでみればいいんじゃないっすか?」


 人生初の魔法。少し緊張する。

 格闘技の練習前のように、深く息を吐いて瞑想する。

 目を閉じると、体の中を流れる「気」のような微かな気配を感じた。

よし、これを一気に……!


「はっ!!」


 …………。

 ……何も出ない。


「はぁっ!!」


 …………。

 やっぱり、何も出ない。


「もうやめてくだせ――っす。そろそろケツから汚ねーのぶちまけそうで見てられないっすから!!」

「出ないんですけど、魔法……」

「こんなことは初めてっす……。転生者には自動的に魔法が備わってるはずなのに」


 嬢は俺に気まずそうに、だけど残酷な事実を告げる。


「出るのが遅いとかって理由じゃないですか……」


「早い遅いの問題じゃないっすな。小さすぎる人は、いくら頑張っても出ねーみたいっすね。ウチも初めて知りやした……魔法すら使えない転生者がいるなんて」


 まじか……

 魔法ある世界で使えなくて大丈夫なのであろうか……


「でも大丈夫っす!! どんなに小さい人でも、【共鳴】ってのがありやすから!!」

「共鳴? ……いくらするんですか、その薬」

「薬の名前じゃねーっすよ!! 」


さっきから、小さいだの、早いだの、アソコの話みたいだからてっきりお薬なのかと思った俺が恥ずかしいではないか


「パーティー――つまり、チームを組んだ時に時たま起こるって言われてる現象っす。共鳴すると魔力量が増えたりするとかしないとか」

「おお!!」

「まあ、あくまで噂っすけどね!! ウチですら見たことないし、誰も成功したことないんで、一生小さいままで確定っす!! 忘れてください!!」


 希望の光を秒速で消された。

 


希望の光を秒速で消された。気休めにもなりゃしねえ。


「ただ、男の価値は大きさだけじゃないっすよ!! 元気出すっす! どんなに出せなくても!!」

「いい加減、黙ってくれ……」


 下品すぎる。顔はモデル級なのに、中身は世紀末のヤンキーだ。ノリアは追い打ちをかけるように、異世界の厳しいルールを説明し始める。


「あと、ダンジョン――つまり迷宮みたいなもんっす。階層に分かれてて、進むごとに敵は強くなっていくっすけど、一人は絶対にダメっす!! 特に、おにーさんみたいな『小さい男』は!! いくら報酬が豪華でも絶対っす!!」

「なるほど。でも、パーティーとかに人数制限とかないなら、死ぬほどメンツ集めれば攻略できるんじゃ?」

「できなくないっすけど、パーティー組むには色々とルールとかもあるっす。でも、ちいせーお兄いさんは、誰も組んでくれなさそうっすね!!」

「じゃあ、俺って……どうやって生活すればいいの?」

「ダンジョン以外にも魔物がいるっす。クエストとかもあるんで、それをやっていけば報酬はもらえたりするっす!! でも、ほとんどのクエストもパーティーは必須っす」

「マジか……」

「でも、弱い魔物でも倒せば、金と交換できるっす。だから、一人で大人しく楽しむしかないっすよ!!」

「でも、弱い敵は、交換してもあまり金にならないってことですよね?」

「まあ、そうっすね! でも、そこまで落ち込むことないでやんすよ。とりあえず、これあげるんで、大人しくしやがれって感じっす!!」


 俺は「転生ボーナス」ということで、一定額のお金を渡された。

 そして、住むところも手配される。口は悪い割に、ノリアはテキパキと仕事をこなした。


「あと、1ヶ月は家賃タダにしておきやすから、泣くんじゃねーぞでございます!!」

「あ、ありがとうございます……」


 1ヶ月だけかよ。ずっと無料にしろよ……と思いつつも、住む場所があるだけマシか。絶対あのハニトラ女許さねえ。いつかボコしてやる。


「あ、そういえばウチの名前を言っておりやせんでしたね。ウチは『ノリア・ルーシャ』っす。気安く『ノリア』って呼びやがれです!! これからはウチが担当しますんで、何かあったら聞きやがれです。指名料はかからないんで安心するっす!!」

「わかりました……」


 チェンジ、できなかった。


「そっちも、名前名乗りやがれです!!」

「ああ。山本大希です」

「この世界ではフルネームは使わないので、『ダイキ』って紹介しやがれっす!!」


 今、あんた自分のことフルネームで言わなかったか?


「そうですか……」


 ツッコミを飲み込み、俺の「極小」から始まる異世界生活が、本格的に幕を開けた。



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