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第1話 俺は異世界にふさわしくない

連載始めました

テンプレのようでテンプレでなくテンプレのような作品になっております

「ねえ、家に来て? ……そうしたら、キスしてあげる!!」


 俺が鮮明に覚えているのは、その甘い言葉だった。

 そして気がついたら、俺は『異世界』という場所に立っていた。


 結論から言おう。どうやら俺は、ハニートラップに引っかかり、異世界に飛ばされたらしい。

 名前は山本大希やまもと・だいき。大学1年生の18歳。

 彼女いない歴=年齢だった俺に、大学入学早々、人生初のモテ期が来た――と思ったのが運の尽きだ。


 いい感じになった女の子の家で、出された「不思議な飲み物」を口にした直後、意識がブラックアウト。目が覚めたら、見知らぬ丘の草むらの上。


「あれ……あの子、どんな顔だっけ……」


 あんなに可愛かったはずなのに、顔が思い出せない。

 性格に惹かれ合ったはずなのに。結構長く一緒にいたはずなのに。

 だけど、なぜか名前だけははっきりと脳裏に刻まれている。


「は……る……の……り……さ……『春野理沙』だ!! ──って、なんで名前だけ覚えてるんだよ俺!」


 あの女(そもそも女だったのかも怪しい)に騙されたのか、あるいは何かの儀式に利用されたのか。

 状況は最悪だが、丘の上から見える街並みは、地球で言うところの中世風。スマホもビルも見当たらないし、道ゆく人々の中には人間じゃないヤツも混じっている。

 どうやら、ここが「異世界」だということだけは間違いなさそうだ。


 普通なら「選ばれし転生者」として酔いしれる場面かもしれない。


巷の噂じゃ、異世界生活はテンプレ通りに進めば無双できるらしいしな。  


だが、俺は今、猛烈に焦っている。


 俺は――アニメやラノベの知識が、絶望的に疎いのだ!!!


 自慢じゃないが、人生でライトノベルを1冊も読んだことがない。

 流行りの「異世界テンプレ」なんて、テの字も知らない。

 こういうのは、もっと知識豊富なオタクが来るべき案件じゃないのか? なんでよりによって俺なんだ。あのはめた女、絶対に仕事ができないタイプだろ。


 別にオタクを馬鹿にしているわけじゃない。

 俺だってコミュ障だし、趣味に没頭するタイプだ。

 

ただ、俺の趣味は筋トレ、格闘技、テニスといった「体を動かすこと」だった。


身長175センチ、筋肉質で運動神経は抜群。  そう言うと「陽キャ」だと思われがちだが、俺は断固として否定する。  サッカーや野球のようなグループスポーツは、人と関わるから嫌いだ。  筋トレや格闘技は、一人で完結するか、あるいは相手が「敵」だから仲良くしなくて済む。  いつか陽キャ集団に絡まれた時に返り討ちにするための『対陽キャ特攻』を日々磨いている、筋金入りの「ど陰キャ」なのだ。


今までの学校生活でももちろん友達はいない。


 そんな俺を飛ばした理由が、もし「ど陰キャだから」だとしたら、神様のセンスを疑う。

 ……まあいい。両親も早くに亡くしているし、モテ期も偽物だった。日本に未練はない。

 


異世界転生、受け入れてやろうじゃないか。


 さて、どうするか。

 テンプレを知らない俺は、途方に暮れて草むらに座り込む。

 


ただ、一つだけ脳内にこびりついて離れないフレーズがあった。


『着いたらギルドに向かえ』


 ……ギルド? なんだそれは。ファミレスの親戚か?

 まあ、場所の名前だろう。俺は丘を降り、人が行き交う街へと歩き始めた。


 道ゆく人々は、駅のポスターで見るようなコスプレイヤーみたいな格好ばかり。

 そんな中、大きな看板に『冒険者ギルド』と書かれた建物を見つけた。

 中を覗くと、多種多様な連中が集まっている。

 幸いなことに、文字も言葉も自然と理解できた。日本語として脳内変換されている。これだけはラッキーだ。転生?転移?の恩恵ってことなのか???


 恐る恐る中に入ってみると、ギルドの中は、フードコートのような雑多な雰囲気だった。

 

とりあえず受付のお姉さんに聞けば、何かわかるはずだ。

 俺は、窓口にいた二人の美人のうち、一人を選んで歩み寄った。


 なぜ彼女を選んだか。

 それは、彼女が「清楚な大和撫子」に見えたからだ。 

 黒髪ロングのモデル体型。控えめで優しそうな微笑み。

日本にいたら、CMに出まくっていたことだろう。


 人見知りにとって、話しかける相手の「人相占い」は必須科目。教室の隅で「話していい人間」を見極めてきた俺の観察眼が、「この人なら丁寧に対応してくれる」と告げている。


「す、すみません。ちょっと尋ねたいことがあるんですけど……」


 勇気を振り絞って声をかけた。

 受付のお姉さんは俺に気づき、とびきりのスマイルで――。


「受付に1人きやがりましたか!! なんの用でいやがりますか!?」


 …………は?

 口、わっる!!!


 清楚!? 丁寧!? どこがだ!

 態度は完全に「どヤンキー」じゃねえか! 日本なら即クビ、即炎上案件だぞ!

 戸惑う俺を、ヤンキー受付嬢はじろじろと眺め回す。


「転生者のクソ野郎どものうちの一人ですよね!!」

「そ、そうみたいです……」


 見ただけでわかるのかよ。

 

「じゃあ、どーせここの世界のことよくわからねーと思いやすんで、説明しやすから、耳の穴カッポジってよく聞き上がってください!!」

「は、はい……」


  多分、敬語が下手なんだコイツ。それかわざと怖い風に話しているのか?

 説明してくれるのはありがたいが、この人の言う内容って、本当に正しいのであろうか。いい加減な内容じゃないといいけど……。

 そんなことを考えていると。


「あ!! 今、うちの説明が嘘くさいとか考えやしたね??」


 嬢が少しイライラした様子で身を乗り出してきた。やべ、顔に出ていたか。


「そ、そんなことは、ないですよ……?」

「もちろん、説明することはとっても面倒でいやがりますね! 毎回毎回、新入りのパンピー相手に説明させられるこっちの身にもなって欲しいってのは、あるに決まってるだろうでございます!! でも、仕事はイヤイヤでもするんで!!」

「それは、よかったです……」

「もちろん嘘はつかねーんで安心しやがれでございます。嘘なんて半端ねーことはしないと盃を交わしてるんで、破ったらちゃんとエンコ詰めますから」

「そこまでしなくても大丈夫です……」


 さっきから発言が怖いって!!!

 この受付『嬢』――チェンジで!!!!

 まじで間違えた……なーにが人相占い得意だよ。完全に節穴だったじゃないか。

 本能的にこのヤンキー嬢を選んでしまった自分に猛省していると、彼女はさらに畳み掛けてきた。


「とりあえず、具体的には、この世界では一人ひとつ【固有魔法】が使えるっすでございます!! 魔法の『威力』とかは、魔力『量』で決まるものっす!!」

「魔法が使える世界なのか……。いきなり言われても、現実感がないな」

「呪文とか覚えなきゃいけないんですか?」

「呪文?? 何言っていやがるんすか。魔法は一人一つ、固有魔法が与えられるだけっすよ。体の一部のように普通に使えるっす」


 呪文を覚えないでいいのは楽だな。

 だが、俺の中にわずかにある「異世界転生」の断片的な知識を総動員して聞いてみる。


「なるほど。じゃあ、スキルとか、レベルアップとかってどうするんですか? 俺、ああいうのよくわからないんで……」

「――スキルってなんすか? そんなもん、この世界にありやしませんぜ!! 頭おかしいんじゃないでございますか!?」

「――ないなら良かったです……」


 あれ?? 異世界転生って、なんとかスキルとか、レベルアップとかあるんじゃないの??

 だから、クソ長いタイトルになってて、結局俺みたいな疎い奴は何一つ覚えてないものじゃないの?

 まあ、どのスキルから育てていいのかよくわからないから安心したぜ。あーいうのはセンスを問われるからな。


「魔力量を測るのが、来たばっかのパンピーがやることですね!! 水晶に手をかざせば、一発でわかるっす!! 黙ってついて来やがれっす!!」

「は、はい……」


 あ。また脊髄反射で返事してしまった。

 黙ってないとかって理由で因縁つけられて、裏に連れて行かれてボコられる……なんてことはないよな? 相手は受付嬢なんだし。

 

いや、この「ヤンキー嬢」に限っては、あり得るかもしれない……。

ドM野郎しか本指名しないだろう。


 俺は半ば覚悟を決め、彼女の背中を追ってギルドの裏庭へと連れ出された。


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