第1話
「110入電。東京都台東区入谷一丁目、行方不明事案発生――」
緊急指令室のスピーカーが低く響く。
小澤は書類から視線を上げ、部下たちを見渡す。空気がピリリと張りつめた。
「警部、現場は入谷です。詳細は行方不明の大学生、21歳。昨日のサークル飲み会の後、今日になっても戻らず、友人から通報がありました」
小澤は軽く頷く。
「1班は現場急行、2班はバックアップ。俺も行く。準備しろ」
部下たちは素早く動き、無駄のない指示で現場対応を整える。
*
現場のアパート前には地域課の巡査が封鎖線を張って待機していた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。捜査一課、小澤です。中、入りますね。」
簡単な挨拶を交わし、現場保存の状態を確認する。
「1班は建物内部の確認、2班は周囲住民への聞き込み。異常があれば即報告」
ワンルームの室内は生活感があるが荒らされた様子はない。
窓は施錠されていない。部屋の中も整然としている。
「争った形跡はありません」
「地域の森が言うには鍵は開いていたそうです。通報した参考人は、今任意で聴取してます。」
眉をひそめる小澤。
違和感――何者かと争った様子もない。乱れていない。テレビの前のテーブルには飲みかけのコーヒー。事件性がある部屋には見ない。
そのとき、部下の一人が棚の上を指さす。
「警部、これ、なんですかね?」
差し出されたのは一冊の本。
白手袋をはめ、内容を確認する。
表紙には見慣れない文字。中身も同様で、何が書かれているのか判別できない。
「読めないっすね」
「見たことない文字だな。とりあえず、押収な」
「了解です」
もう一度ページをめくるが、見知らぬ文字が浮かぶだけ。
小澤は手にした瞬間、頭の奥でわずかにチリッとした違和感を感じた。
「……っ」
「警部?どうかしました?」
「……一瞬、頭痛がしただけだ。働きすぎだな」
「……っすね」
伏線のように残る違和感を頭に刻み、現場確認を終える。
帰庁後も報告書や連絡業務に追われ、夜が更ける。
「警部はもう帰ってください。後はやっておきますんで」
「家に帰っても誰もいやしねぇよ」
「それでもお疲れなんっすから。ゆっくり寝てくださいよ」
部下に残務を託して帰宅し、靴を脱ぎソファに体を預ける。
「ああ……疲れた」
視界の片隅に、あの本の文字がちらつく。
読めない文字、意味不明な違和感――
考えても答えは出ない。
「……まあいいか」
意識が沈み、深い眠りに落ちた。




