切り札の瞬間
エセスはゆっくり立ち上がった。
部屋の視線が一気に集まる。
彼女は深呼吸をして、静かに口を開いた。
「Bランクになりますが……私の担当、リスティを提案させてください」
カヴァーデルが軽く眉を上げたが、エセスはすぐに書類を差し出した。
リスティの依頼履歴が、細かくまとめられている。
「彼は新規案件の信頼を勝ち取る能力が抜群です。闘技場の新規契約を3ヶ月完璧に成功させ、以降の取引を安定させました。他にも、遠方交易路の初回護衛、地方商会の初回交渉……どれも『誰もやりたがらない』初回案件を、淡々とこなして信頼を築いています。王族護衛でも、街の事情を丁寧に説明し、失礼なく対応できると思います」
カヴァーデルは書類を受け取り、ページをめくり始めた。
戦闘経験の欄が目に入る。
他のAランク候補に比べて、明らかに少ない。
「ふむ……戦闘経験が他のメンバーより少ないな。王族護衛で何かあったら、対応できるのか?」
エセスは視線を落とさず、強く答えた。
「彼は視力にハンデがあるので、夜勤の戦闘業務は避けています。しかし、実績はいくつかあります。戦闘経験の少なさは、私が彼の信頼関係構築能力を活かせるよう、意図的に新規案件を回しているからです。戦闘より、初対面の相手と信頼を築く方が、王族護衛には必要だと判断しました」
カヴァーデルはもう一度書類に目を落とした。
新規案件の欄が、びっしりと埋まっている。
闘技場、交易路、商会……どれも「初回」マークがついている。
「うんうん……新規案件の数見てると、間違いなさそうだな?コイツだったら、王族だろうが上手く付き合えそうだな?」
彼は軽く笑って、書類をテーブルに置いた。
「よし、Bランクだけど、コイツ入れよう。他いるか?」
エセスは胸を撫で下ろした。
肩の力が少し抜け、口元に自然と笑みが浮かぶ。
(やった……リスティが入った……!これで、私の勝負は決まった……)
彼女は静かに席に戻った。
まだ残り枠はあるけど、今はこれで十分。
リスティ一本でここまで来れた。
それだけで、今日は勝ちだと思った。
部屋の空気が、少しだけ和らいだ。
エセスは書類を軽く整えながら、
次の発言を待つことにした。




