会議の幕開け
ギルドの奥まった会議室は、重厚な木の扉の向こうに広がっていた。
長テーブルを囲むように、幹部と担当者たちがすでに座っていた。
壁に掛けられた地図と依頼書の山が、部屋の空気をさらに重くしている。
ギルド長カヴァーデルが、テーブルの中央に置かれた王族護衛の依頼書を指で叩いた。
「さて、始めようか。今回の王族護衛任務、護衛総勢10名が必要だ。失敗は許されない。最低でもSランクの人員を4名は確保したい」
カヴァーデルは軽く咳払いをして、依頼書の概要を簡単に補足した。
「レッド国のペイジ王子だ。後にレッド国の王になる予定の若き皇太子で、現在は城内で王になるための教育を受けている。だが、王になる前に『国の外を知る』必要があるということで、街の視察をすることになった。もちろん、王国側からも専属護衛はつけるが、『街を知る者』の意見も聞きたいということで、我々ギルドに10名の協力依頼が来ている」
部屋に緊張が走る。
皆が書類の束を手に取り、視線を交わした。
(この視察は、単なる散策じゃない。王族の安全がかかっている以上、万が一のトラブルで外交問題に発展したらギルドの信用が地に落ちる。それに、王子が『街を知る者』を求めてる以上、ただの戦闘要員じゃなく、街の事情に詳しく、礼儀正しく対応できる人間が必要だ……)
エセスは書類を握りしめながら、心の中でそう思った。
部屋に緊張が走る。
皆が書類の束を手に取り、視線を交わした。
カヴァーデルが続けて口を開いた。
「Sランクの候補として、俺からはこの四名を推す」
彼は指で数えながら名前を挙げた。
「ジョン、エヴァンス、シンパー、イアン。この四人は戦闘実績も性格も安定してる。王族相手に失礼を働く心配はないはずだ」
幹部サイクスが、すぐに手を挙げた。
「ブラックモアは入れないんですか?あいつ、戦闘力なら誰にも負けないですよ」
カヴァーデルは冷静に首を振った。
「ブラックモアは戦闘能力に問題はない。だが、性格に問題があるだろう。相手は王族だ。一言でも失礼なことを言われたら、外交問題に発展しかねない。今回はマズい」
サイクスは少し不満げに肩をすくめたが、それ以上は追及しなかった。
エセスは席の端で書類を握りしめていた。
心の中で、静かに息を吐く。
(……これは好都合だわ)
エセスはこの王族護衛任務に、リスティをどうしても入れたいと思っていた。
戦闘力最優先の会議なら、Bランクのリスティを推すのは無理だった。
しかし、今の流れは違う。
「性格重視」「王族に失礼を働かない」
この基準なら、自分の最大のカードであるリスティが入れる可能性がある。
(戦闘力だけじゃない。信頼を築ける人間が必要だって、上層部が気づき始めてる……ここで、リスティを捩じ込めれば……)
エセスは書類の端を指で強く押さえた。
まだ自分の番は来ていない。
焦らず、タイミングを待つ。
カヴァーデルがテーブルを軽く叩いて、会議を進めた。
「Sランクはこれで四名確定だ。残り六名。Aランク中心に回していこうか」
部屋の空気が、少しだけ緩んだ。
しかし、エセスだけは、まだ緊張を解いていなかった。
彼女の視線は、静かに次の発言者を待っていた。




