帰還と小さな約束
ギルドの扉が静かに開き、リスティが荷物を肩から下ろした。
遠方の荷運び護衛から戻ってきたばかりで、埃と汗が少し混じった匂いがした。
カウンターの向こうで、エセスが顔を上げて微笑んだ。
「おかえりなさい、リスティさん。無事に終わったんですね。報告書、ありがとうございます」
エセスはすぐに書類をめくり、報酬の袋を差し出した。
その横に、紙コップに入った温かいコーヒーをそっと置く。
「いつもありがとうございます。これ、飲んでください」
リスティは報酬の袋を受け取り、コーヒーを手に取った。
カップから立ち上る湯気が、疲れた体に優しく触れる。
「ありがとうございます。いただきます」
彼は一口飲んで、軽く息を吐いた。
カウンター周りを見回すと、いつもより人が少ない。
他の受付嬢の姿がほとんどない。
「今日、人少ないですね?」
リスティが辺りを見回しながら尋ねると、エセスは少し苦笑いを浮かべた。
「ええ……これから大きな会議がありまして。私も今から参加なんです」
彼女は書類の束を軽く叩いて、肩をすくめた。
「ちょっと大きな案件で、上層部が集まるんですよ。ちょっと緊張してます」
リスティはコーヒーをもう一口飲んで、静かに頷いた。
「大変そうですねぇ。まぁ、頑張ってください。僕は明日も早いので失礼させて頂きます。困った事が合ったら、声かけて下さいね」
彼はカップを空にして、丁寧にカウンターに置いた。
荷物を肩にかけ直して、扉の方へ歩き出す。
その背中に、エセスが小さく声を掛けた。
「リスティさん」
リスティが振り返る。
エセスは少し照れくさそうに、でも真剣な目で言った。
「私、頑張りますね」
意味深な言葉だった。
リスティは一瞬、首を傾げたが、すぐに淡々と答えた。
「はい、頑張ってください」
彼は軽く会釈して、ギルドの扉を押し開けた。
外の風が少し冷たく、夕陽が長く影を伸ばしていた。
エセスはカウンターに肘をついて、リスティの背中を見送った。
カップの底に残ったコーヒーの香りが、まだ少し漂っている。
「……絶対に、チャンスを掴んでみせます」
彼女は小さく呟いて、会議室へ向かう書類の束を抱えた。
足取りはいつもより少し速かった。




