変わらぬ日常
ーー数日後。
ギルドのカウンターは、いつも通り静かだった。
リスティが扉を押し開け、荷物を下ろす。
今日も依頼を終えての報告に来ただけだ。
「お疲れ様です、エセスさん」
エセスは笑顔で報酬の袋を差し出した。
いつものように、紙コップのコーヒーを添える。
「本日もお疲れ様でした、リスティさん」
リスティは報酬を受け取り、コーヒーを手に取った。
カップの温かさが、疲れた指に染みる。
エセスは一瞬、迷った。
ランク制度の改革は、もう決定事項だ。
リスティの地味な積み重ねが、飲み会のあの夜に火をつけ、ギルド全体を動かした。
彼に伝えるべきか……?
でも、エセスは静かに首を振った。
(……今は、必要ない)
制度は必ず変わる。
リスティはすぐに昇格して、結果が出る。
今伝えるより、変わった後の「いつも通り」の方が、彼らしいと思った。
リスティはコーヒーを一口飲んで、尋ねた。
「明日の仕事、何かありますか?」
エセスは書類の束から一枚を取り出し、差し出した。
「はい、近場の簡単な仕事です。4名のゴブリン討伐。二時間ぐらいで終わると思います」
リスティは書類を見て、軽く首を傾げた。
「えっ、これ近いですし、二時間ですか?こんな仕事でいいんですか?」
エセスは柔らかく微笑んだ。
「はい、王族護衛の任務に出て貰ったので、たまには楽して貰おうと思いまして。それとお礼に……今日、御馳走させて貰えません?」
リスティは少し驚いた顔をした。
「今日ですか?まぁ、明日がこれなら時間取れますけど……」
エセスは頷き、笑顔を広げた。
「はい。今日、他にもサイレンさんとか、ミリアさんとか来るそうなので」
リスティの表情が少し緩んだ。
「あっ、あの時のメンバー来るんですね?それだったら、御馳走になりましょうかね?」
エセスはさらに言葉を続けた。
「ハルキ君も、もうすぐ戻ってくるので、ハルキ君にも声かけようと思ってるんですよ」
リスティは小さく笑った。
「わかりました。じゃあ、明日もいつも通り頑張ります」
彼はコーヒーを飲み干し、書類を丁寧に折りたたんだ。
荷物を肩にかけ、今日は椅子に座る。
エセスはカウンター越しに微笑む。
変わらぬ日常が、そこにあった。
それぞれの小さな積み重ねが、一つの大きな流れを起こした。
それが、このギルドを大きく動かした。
だが、明日も大きく変わらぬ日常が待っている。
エセスは静かに息を吐き、微笑んだ。




