担当者の覚悟
拍手が収まった頃、マーレイがゆっくりとグラスを置いた。
部屋の視線が自然と彼に集まる。
マーレイは静かに立ち上がり、カヴァーデルを見据えた。
表情はいつも通り冷静だが、目には静かな決意が宿っている。
「正直、私はミリアの担当はカヴァーデルさんにして頂いても大丈夫ですよ」
カヴァーデルが目を丸くした。
「えっ……?マジで……?」
マーレイは鋭い目でカヴァーデルを捉え、言葉を続ける。
「ミリアを使う事でカヴァーデルさんの担当が底上げされるなら、私はミリアをお譲りします」
カヴァーデルは慌てて身を引いた。
「それは、どういう事だ……もう少し詳しく聞かせてくれないか……?」
マーレイは淡々と説明を始めた。
「私の担当の『銀翼の剣』『鉄壁の盾』。こちらはミリアのおかげで立て直されただけではなく、自分達もミリアのようになりたいとの目標を持ち、同じように他のチームの立て直し業務を行なっております。ミリアがいなくなる事は苦しくなりますが、なんとかミリア抜きでも回す事は可能かと」
カヴァーデルは喉を鳴らした。
「お、おう……そ、そうなのか……」
マーレイは視線を外さず、静かに続ける。
「ミリアが加わる事で、カヴァーデルさんの担当にミリアの調整力が受け継がれるのであれば、私はミリアをお譲りしても構いません」
エセスは息を呑んだ。
マーレイの言葉に、組織のためなら担当を手放す覚悟を感じる。
同時に、マーレイの本音は違うとも思った。
この人は、ミリアを誰にも渡したくないはずだ……
マーレイはさらに言葉を重ねた。
「ただ、カヴァーデルさんは多くのSランクを担当されていますよね?ミリアと同じような調整力を持った人材はいませんか?どうしてもいないと言うのであれば、ミリアの担当変更を引き受けますが、どうなさいますか?」
強い瞳でカヴァーデルを見つめるマーレイ。
エセスは確信した。
マーレイは本音ではミリアを手放したくない。
でも、組織のためなら……それでも……
カヴァーデルは額に汗を浮かべ、視線を泳がせた。
「いや、えっとな……わかったわかった……そうだな?ジョンや、シンパーに頼めばなんとかなりそうだな……?わかったわかった。ミリアはお前の担当のままでいい……」
マーレイは静かに頭を下げた。
「はい。それでは引き続き、ミリアの担当は継続させて頂きます」
一同が拍手をする。
サイクスが笑いながら手を叩いた。
「いやぁ、無礼講って楽しいねぇ、本当」
カヴァーデルは照れ臭そうにワインを口に運んだ。
「もう、本当、言わなきゃよかった……ここまで総スカン喰らうとは想像してなかった……」
一同がくすくすと笑う中、
サイクスがグラスを掲げて声を上げた。
「お前ら、手に負えないようなヤツがいたら、いつでも俺に回せよ!俺はそういうヤツの扱い専門だからな!なぁ〜んでも引き受けてやっからよ!?」
エセスはグラスを手に取り、静かに息を吐いた。
皆、酒の勢いで本音を出しすぎてしまった。
でも、この本音の語り合いが、
ギルドを少しずつ良くする一歩になるかもしれない。
彼女は小さく微笑んだ。




