毒矢の特例
サイクスがグラスを掲げて叫んだ。
「ダンバー、いけぇ!」
ダンバーはその言葉に勢いづき、カヴァーデルにさらに詰め寄った。
笑顔のまま、声に力がこもる。
「ガストが欲しいって言いましたよね?アイツがどんな任務してるか、ご存知ですか?」
カヴァーデルはしどろもどろになりながら、指を折って思い出すふりをした。
「え〜っと、ガストは……なんだったっけな……?」
ダンバーは笑顔のまま、ゆっくりと首を振った。
「任務も知らない人間を引き抜こうとしてるんですか!?」
カヴァーデルは慌てて手を振った。
「あっ、え〜っと……思い出したよ……?ガストは三人でキマイラ討伐した奴……!」
ダンバーは声を張り上げた。
「そうですよね!?三人でキマイラ退治した奴です!ガストいなくなったら、誰が仕事するんすか!?あんな仕事、ガスト以外出来ませんよ!?死人続出しますよ!?そうなってもいいんですか!?」
一同がどよめく。
エセスはグラスを握ったまま、息を呑んだ。
カヴァーデルは完全に後退りし、テーブルに手をついた。
「うん、ダメ。ガストはダメ。死人が出ちゃうね。ガストはお前の担当……!そのままで行こう」
ダンバーはさらに続ける。
「そもそもですよ?Bランク任務とは言ってますが、アレ、人数足らずだからAランク任務なんですよ!?だったら、アレAランク用の支給品使わせてもいいんじゃないですか!?」
カヴァーデルは困った顔で答えた。
「いや、でもそれはギルド規則じゃん……?」
サイクスが即座に叫んだ。
「勝負だ、いけぇ!今日は無礼講!」
ダンバーは一気に畳みかけた。
テーブルを叩いて、酒瓶が揺れる。
「規則と、死人が出るのどっちが大事なんですか!?ガスト、毒矢の支給ずっと求めてるんですよ!?本当、このままじゃいつかガスト死にますよ!?任務内容によっては、そういう特例処置あってもいいでしょう!?なんなら、そういう特例処置全部俺が担当したっていいですよ!?」
カヴァーデルは両手を挙げて降参した。
顔は真っ青で、声が上ずっている。
「わ、わかったわかった……確かに人数足らずの依頼なんかは、特例処置必要だよな……?即急に見直し考えるよ。あの、ガストはどうせ昇進試験受けさせるし、もう明日から毒矢支給していいよ。それ、担当のお前から伝えておけ……」
ダンバーは深く頭を下げた。
声に喜びが混じる。
「ありがとうございます!」
マーレイが無言で拍手をする。
サイクスもそれに続いて拍手をしながら、声を上げた。
「今日は無礼講だ!他に言いたい事あるヤツは言っちまえ!俺が全部責任取ってやる!」
エセスはワイングラスを手に取り、一気に飲み干した。
覚悟が決まった。
彼女はゆっくり立ち上がり、カヴァーデルの元へ歩み寄った。
「私、行きます!」
部屋の視線が一気にエセスに集まった。




