最後の一名
エセスはハルキの書類を強く握り、声を張った。
「ラスト一人として、私の担当のハルキを提案させてください。Cランクのヒーラーですが、回復魔法だけでなく、キャンプ設営、食事準備、雑務全般を完璧にこなします。何より、パーティの雰囲気を保つ応用力があります。チームの空気が悪くなりがちな長丁場の依頼でも、明るく振る舞ってみんなを支えてくれるんです。王族護衛のような緊張した場面でも、細やかな気遣いが活きると思います」
カヴァーデルは書類を受け取り、ページをめくり始めた。
「俺、若い奴全然知らねぇなぁ。そのハルキって奴も有名人なの?」
彼は周りに視線を投げた。
マーレイ、ダンバー、エイリー……皆が首を振る。
「知りませんね」
「聞いたことないですね」
「うちの担当じゃないから……」
周りからは「わからない」の反応が返ってきた。
エセスは胸が締め付けられる思いだった。
(しまった……ハルキは黙々と仕事をこなすタイプだから、ギルド員にはあまり知られてない……!このままじゃ、採用されない……!)
カヴァーデルが書類をめくりながら、軽くため息をついた。
「うーん……どうするかねぇ?」
その時、ロードが手を挙げた。
「僕、知ってますよ。サイレンさんが褒めてました。何か縁の下業務をしっかりしてるらしいですよね?」
エセスは即座に笑顔で頷いた。
「あっ、その通りです!ハルキはサイレンさんとの仕事で、すごく評価してもらってます」
カヴァーデルが書類をもう一度見直した。
「あぁ、確かにサイレンと二回仕事してるな?まぁ、Aランクのサイレンがそういう評価をしてるなら大丈夫そうだけど……それ確かな情報なんだろうな?」
ロードがすぐにフォローした。
「間違いないですよ。それ、二回目の仕事はサイレンさんからの指名なんですよ。サイレンさんが『次の仕事はハルキさんが欲しい』と言ってきまして、それでエセスさんに無理言って借りたんですよね?」
エセスは一瞬、息を呑んだ。
(思い出した……!私も忘れていたけど、あの時……)
彼女はすぐに思い出した。
ギルド員ロードから「Cランクの強い人材が欲しい」と頼まれ、ハルキに遠方の数日かかる依頼を頼み込んだこと。
ハルキは「わかりました!」と明るく言って、快く引き受けてくれたこと。
その結果、サイレンが「次もハルキがいい」と指名してきたこと。
エセスは胸を張って、声を強めた。
「はい、その通りです。あの依頼は遠方で数日かかるものでしたが、ハルキは文句一つ言わず、回復だけでなく雑務まで完璧にこなしてくれました。サイレンさんから直接『次もハルキが欲しい』と指名が来たんです。彼の応用力は、間違いなく王族護衛に活きます」
カヴァーデルは書類をテーブルに置き、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、それで行くか?この10人で決定にしよう。
それで、俺とサイクスも現場に行くから、その時にコイツらの仕事っぷり見て、まとめて昇格試験の話するか?」
彼は軽く手を叩いて立ち上がった。
「よし、解散!」
部屋に小さな拍手とため息が混じった。
会議は終了した。
エセスは胸を撫で下ろした。
肩の力が抜ける。
膝がまだ震えている。
そんなエセスの元にサイクスがそっと歩み寄ってきた。
「お前、2名も組み込んだじゃん?上手く仕事回してるみたいだな?」
彼は笑いながら、エセスの肩を軽く叩いた。
エセスは笑顔で答えた。
「皆さんのおかげですよ」
彼女は静かに息を吐き、書類を抱き直した。
これで……私の担当が、王族護衛に2人も入った。
まだ昇格は決まっていないけど……
これで、きっと……




