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戦争を終わらせた覚えはない。料理をしていたら革命が起きて銅像になった。

作者: chamoro
掲載日:2026/01/27

 子供が、公園で銅像を見ながら、父親に質問をした。


「ねえ、お父さん、この銅像の人だれ?」

「この人は、長く続いた民族紛争で活躍した人物だよ」

「えー!でも鍋持ってるよ!なんか汚れてるし……もう片方は…おたま?ダサい!戦ってないじゃん!」

「ふつう、強い人が銅像になるんじゃないの?しかも鍋被ってるじゃん」


 父親が、ふふっと笑う。

「この人は、

 この戦争に一切関係なくて、

 でも全員が知ってて――


 ……なんとなく、みんなが好きな人だったんだ」


「??」


 そう言って、子供の父親は目を細めた。


 ――これは、異世界で民族紛争の終戦に(知らない間に)貢献した、ある一人の中年男性の物語。



 * * *



 時は数年前に遡る。



「あ……これ、やばいかも……」


 テツオは、縄で縛られていた。

 頭頂の髪は年齢のせいか薄くなってきており、今は恐怖の汗でびっしょりと濡れ、余計に脱毛気味な頭皮が目立っていた。


 テツオは、真っ昼間に盗賊に襲われていた。

 街の少し郊外でキャンプをしていたら、数人の男がやってきたのだ。

 今も、刃物をこちらに向けている。


「ちょっ!ちょっとまて!ホントに待って!!!!」

「いいから黙ってろ!」


 そんなやりとりの中、下っ端の若い盗賊が、チラチラと昼飯の鍋を見る。

 ……気になるらしい。そりゃ、いい香りがするんだから。


「飯……そうだ、飯!おい、それ食っていいぞ!」


 そう叫ぶと、若い盗賊がラッキーと言い、鍋からシチューを注いだ。

 一口食べると、目を見開き、口に運ぶのをやめられなくなっていた。

 

「ボス!これうまいっすよ!」


(くそッ……俺の昼飯……)


 それを見て、他の奴らも食べ始める。腹が減っていたようだ。

 ボスと呼ばれた男が、目を見開いてこちらに皿を向ける。


「これ、何を使ってる?」

「あ?えーと…具材は普通で、煮る前に塩振って焼いてる」


「他には?」

「なんもねーよ野菜くず全部ダシに使ってるくらいだ」

「……お前、他に何作れる?」

「い、色々作るけど、趣味で。辛いものとか、甘じょっぱいものとか……」


 ボスが少し考えたあと、立ち上がり、縄をほどいた。


 テツオは理解が追いつかず、その場に座り込んだ。

 そしてボスが他の仲間にこう言った。


「おい、お前ら。こいつの荷物に手を付けるな」

「え!?でも……」

「俺の言うことがきけねーのか?」


 そう言うと、盗賊たちは荒らしてた荷物から手を離し、しぶしぶその場から離れた。

 ボスと呼ばれた男は、去り際に振り向いて


「明日も来る」


 と言い、去っていった。


「……は?」


 テツオは、しばらく呆然としていた。


 * * *


「何で次の日も来てんだよ!ふざけてんのか!?」


 盗賊は宣言通り、次の日も来た。しかも部下が増えていた。


 テツオはあの後、急いで場所を移動したのだが、まだ盗賊のテリトリー内だったらしい。

 しれっと林の中から出てきて、今、目の前に立っている。


「手土産は持ってきてる」


 そういってボスは、ドサッと袋を落とした。テツオがおそるおそる中を見ると、燻製肉だった。


「お前の料理を、コイツらに食わせろ」

 そう言って、盗賊たちを指した。


「……拒否権は」

「ないな」

「――じゃあ、どーぞ。勝手に食え」


 テツオは、諦めてそばの石にどかっと座った。

 ボスと部下の一人が鍋に近づき、器によそって食べる。


「どうだ?ピーター?」

「これは……すごいっすね。食べたことない味。塩漬け魚を煮てる」

「発想が面白いだろ?」


 ボスがニヤリと笑った。

 そして彼はテツオの方へ近づき、真剣な顔でこういった。


「お前、俺と屋台料理やらないか?」

「……は!?」


 テツオが目を丸くしていると、ボスがこう続けた。


「俺は元々料理屋やっててな。

 でも失敗して、そこから転落人生だ。家族とも離れた」


 盗賊のボスが、手を差し出してくる。


「俺はハネス。お前、名前は?」

「……テツオ」

「テツオか。異世界人だな、迷い込んだか。いつからこっちに?」

「……1年ぐらいだな」


 ハネスが続ける。

「この国、何で冷たい飯しかないか分かるか?」

「さあ?」

「昔、木が全然無かったんだよ」

「木は暖房優先。命に関わるからな」

「余分な木がねぇから、料理が出来ない。冷たいまま食べる食べ物が殆ど」


「だから、温かい料理の知識が積み重なってねえんだよ」



 ハネスが、テツオを見据える。

「お前と、また料理屋を始めたいと思う。屋台からな」

「ちょっとまて、俺は趣味でやってるだけであって、店に出すレベルじゃない」


「俺は、もうこの味ならいけると思っている」

 ハネスが、確信をもった声で言い放った。


「どうする?やるか?」

 ハネスがテツオの前に手を伸ばす。

 そしてテツオは――


 その手を握り返した。


 * * *


 盗賊をやめたハネスと都市で二人で屋台を始めると、徐々に客が増えてきた。


 ある日の午後、屋台に一人の子連れの女性が訪れた。


「あの……余った食材を分けてもらえませんか?」

 そう言った女性の顔はやつれ、豊かな茶髪はバサバサだった。

 その後ろに連れられている子供の身なりは、薄く汚れていた。


「おお、アティナか。まってろ」

 ハネスがそう言うと、手早く食材を包む。


「ほら、がんばれよ。またこい」

 アティナと呼ばれた女性は頭を下げると、静かに去っていった。


「あの女性、友達?」

「友達というか、知り合いだな」


 その後ろ姿を見て、ハネスが言葉を漏らす。


「俺が言えたことじゃねぇが……旦那がダメでな、今は一人で子供のレナを見てる。

 彼女も、仕事を探しててな。ただ、子供がいると家をあけられないからな……」


 ハネスも子供がいるから、見逃せなかったのだろう。


 ぱっと見たところ……子供の髪に、艶が無かった。

 栄養が足りてないように思う。


 そして、テツオは閃いた。


「なあ、こういうの、どうだ?」

「…いけるな」


 * * *


 テツオとハネスは子ども食堂を始めた。


 週に1日の栄養満点具だくさんスープ。

 午後の決まった時間しか出来ないが、さまざまな事情を抱えた人々が集まっていた。アティナとレナも含まれていた。


 素材は、周りの屋台や食堂の余りを貰ってくる。

 時々、取置して貰う事も出来た。


 暫くすると、レナの髪に艶やかさが出てきた。

 アティナも、肌の調子が良くなっていった。


「レナ、うまいか?」

「うん!美味しい!」


 テツオは、それを聞いて満足そうに目を細めた。

 それを見てアティナも笑う。


「いつもありがとうございます。テツオさん」

「いいんだ。子供は沢山食べたほうが良い。アティナもな」

 そう言うとアティナが、少し恥ずかしそうにスープを口に入れた。


「おいアティナ!やっと見つけた!」

 突然、男の怒声が屋台に向かって飛ぶ。


 アティナが、声にビクリと肩をはねさせ、目を見開き、手が震え始めた。

 レナも、同じ表情をしていた。アティナが急いでレナを抱きよせ、振り返る。


 叫ぶ男がアティナに近寄り、腕を掴む。

「アティナ!てめぇ!俺を置いて出ていきやがって!家に帰るぞ!」

「あ、あなたはもう夫じゃない!帰らないわ!」

「なんだと!」

 そう言って、男が、アティナに手を上げた。

 肩を殴り――


 ――頬をパンと叩く。


 それを見て、テツオの中で糸が切れた。

 気づいたときには、手が勝手に伸びていた。


「アティナとレナに近づくんじゃねぇこのクズ野郎!!!」


 テツオが男の胸ぐらを掴み、思いっきり殴りかかった。

 男もテツオの肩を殴り、怒ったテツオが男の頬を平手打ちした。


 テツオは人の殴り方など知らないので、とにかく手を前に伸ばした。

 顔を何発も殴られ、痛みで隙ができた時、拳が目の前に――


 ――しかし――

 パン!と一発音がしたかと思うと、男の体がぐらつき、地面に倒れ込んだ。


 制したのは、ハネスだった。


「大丈夫か!?テツオ!」


「くそーいてぇ……」

「テツオ、お前もしかして、喧嘩したことないのな?」

「ねぇよ!全然ない!くそ…殴った方も痛ぇじゃねぇか……!」

「弱ぇのによくやるな……」


 アティナが近づいてくる。レナが怯えてアティナの後ろでスカートの裾を掴んでいる。


「テツオさん!大丈夫ですか!?」

「ごめん……首突っ込んじゃって。手を上げてるのを見て、カッと頭にきて……」

「……テツオ、痛いの?」


 レナが、悲しそうにテツオの血が流れる額を見る。


「大丈夫だ。ちょっと痛いけど」

 テツオが、ニッコリ笑った。痛みで顔がひきつる。

 本当は、かなり痛い。

 笑うと、レナが少しだけ安心したようだった。


「ありがとうございます……本当に……」

 アティナが涙目でテツオの額にハンカチを添える。じわりと血が滲んだ。


 * * *


 その後も、屋台と子ども食堂は賑わっていた。


 毎週同じ人が来る事が多いが、来ないと「あの子いないね」と誰かが気付き、お互いに気をかけるようになった。


 アティナとレナは常連になり、配膳を手伝ってくれるようになった。

「テツオ、テーブル片付けた!」

「偉いなレナは。助かるよ」


 褒められて嬉しそうなレナの様子を、アティナが嬉しそうに眺める。

 そのアティナの顔を見て、テツオも嬉しくなった。


 ふと突然、頭に疑問が浮かぶ。


 あれ……?

 アティナって、こんなに可愛いかったっけ?


 そう思った瞬間、アティナと目が合う。

 驚いて、恥ずかしそうにお互いサッと見るのをやめた。


 テツオは脈が一瞬はやくなったが、それは直ぐに打ち消される。

 ――黒い軍服の団体がやってきたからだ。

 その先頭の男が、ハネスに近づいてゆく。


「よおハネス」

「……イヴァン」


 ハネスの目が、厳しく光る。


 イヴァンと呼ばれた男は、かなり恰幅のいい男だった。片目の眼帯に髭面。

 眼光が、鷹のように鋭く冷たい。


 後ろに、似たような格好の部下たちが何人もいる。

 全員、武器を携帯していた。


「飯屋始めたって聞いてな、挨拶にきた。ひとつくれ。部下たちにも同じものを」

「……座ってまってろ」

 ハネスが、ぶっきらぼうに言う。


 そして、周りの民衆が黒服の団体をみて、ひそひそと話し合い始めた。

「あの制服…間違いない。傭兵部隊ヤロスラフだ……」


 イヴァンが噂話をしている男性の方に、ニコッと笑いかけると、男性たちがさっと逃げるように去っていった。


 そして、ハネスが料理をドンっと荒っぽくテーブルに置く。


「やめろイヴァン。客が逃げる」

「一応、俺達英雄なんだがな?」

「……”炎のヤロスラフ”が、英雄だった事なんかないだろ、常に殺しまくってる」

「戦争だからな」


 イヴァンがスープを口に運ぶと、驚き思わず声が出た。


「うわ!マジで美味いな!?これ誰が作ってる?」

「俺です。良かったです口に合うようで」

 テツオが静かに挨拶をする。


「へえ……アンタ、異世界人?」

「ええ、まあ」

「大変だなこんな紛争地帯に来ちまって。神様も、もっといい場所に送ってやりゃぁいいのに」

 イヴァンがそう言うと、テツオはハハ…と乾いた笑いを漏らした。


「……なあ、ハネス、戻ってこないか?ヤロスラフに」

「戻らん」

 ハネスが、目線も合わせず、短く答える。


「隊長だったときは、目つきの鋭い狼みたいなやつだったのにな。ハネス」


 それを聞いてテツオが、きょとんした顔でハネスを見る。

「お前、前は飲食店って言ってなかったか?」


「……その前が、傭兵部隊だ。そこのイヴァンの下にいた」

 ハネスが、ため息混じりに言葉を漏らした。


「なんだ、お前、話してなかったのか」

 イヴァンが最後のスープをすする。

「美味かった。また来る」

 そう言って、イヴァンに合わせて部下たちも一斉に立ち上がる。


 そして去り際にイヴァンが振り返り、ハネスににやりと笑いかけた。

「ハネス、戻りたくなったらいつでも来い」

「絶体に戻らない」

 ハネスは、そう短く答えた。


 * * *


 屋台は繁盛し、都市の中では名が知られるようになった。

 ある時、王の視察団体が屋台にやってきた。


「ぜひ、異世界人が作ったうまい料理を食べてみたい」

 と立ち寄ったとのことだった。


 ハネスが不在で不安だったが、テツオはいつも通り料理を作り、王に差し出した。


 王がスープを一口食べると、目を見開いた。


「このスープ。どうやってこんな味を出してるのだ?城で食べてるものよりも味が濃い」

「野菜くずを全て煮込んで、かつ他も使います」

「余った素材で、こんなに美味しいものが作れるとは。しかも無駄がない」


 王は、感服してテツオの料理を褒めた。


「まったく……この国の料理人は、一体何をしている」


 テツオは、それを聞き、ピクリと顔が痙攣したが、我慢した。


「王も楽ではない……」

 そして、ため息を漏らしてこう続けた。

「国民も、見習ってほしいものだ。限界まで節約は出来るのだと」


 王がそう言い終わった時、テツオはカッと頭に血が登り、バン!と机を思いっきり叩いた。

 王と側近たちが驚いて一瞬立ち上がり、武器を構える。


 テツオはあっと思ったが、手遅れだった。

 その時、出会った時のレナの、痩せた姿が頭を掠める。

 首が熱くなり、手に力が入る。

 そして王の目を真っ直ぐ見て、大きく息を吸った。


「お前ら政治家が何もやらねーから、こんな事になってんだろ!」


 周りの民衆も、兵士もしんっ……と静かになる。まるで、水を打ったようだった。


「俺はな、もうこの状況を前の世界で見てんだよ」

「戦争を終結させられない国同士がどうなったか教えてやろうか?」


 王の目が、見開き、喉をごくっと鳴らすのが聞こえた。

 テツオが、一呼吸おき、大きく口を開ける。


「なくなったよ!爆弾ぶち込まれてな!」


「俺は全く関係ない。この国の人間じゃねーし、お前の政治は心底どうでもいい。でもな……」


「おれが……おれがどんな気持ちで、やせ細った子供に飯作ってると思ってんだよ!」

 テツオは、持っていたお玉を、力任せに地面に叩きつけた。

 その後も、怒りで手が静かに震えていた。


「そ、そうだ!」

 その時、一人の男性が、群衆の中から恐る恐る声をあげた。

「薬すら買えない……弱ってく家族に何も出来ない…!」

 弱く、消え入りそうな声だったが、皆、しっかりとその言葉を聞いた。


 そして、次々にざわつき始める。

 それは、水の波紋のようにどんどん広がっていった。


 国王が、耳元で衛兵に呟いた。

「……この屋台の男を取り押さえろ」

「し、しかし――」

「扇動罪だ。取り押さえろ」

「……テツオ、すまない」


「やめろ!おれに触るな!」


 衛兵の手がテツオに触れた時、周りの群衆がざわめいた。


「なにしてんだ!テツオはなにもしてねーだろ!」

「やめろ!本当のことしか言ってねーじゃねーか!」

「お前らが戦争を終わらせないから、こんな事になってんだろ!!!!」


 その途端、どこからか、衛兵に向かって石が投げつけられた。

 そこから、大量の石が王の視察団めがけ降り注ぐ。


 たまらず王とその護衛たちは、王を守りながらその場を離れた。

 しかし、その炎は、民衆を熱量の渦に引き込んでゆく。


 革命の火種がついたのだ。


 その炎はどんどん燃え上がり、数日後には、城門の前に数万人規模の人間が立っていた。


 * * *


 閉ざされた城門の前。

 集まった民衆をみて、テツオが恐れ慄く。


「こ、こんなに民衆が集まってる……俺達大丈夫なのか?軍とか出てきたら――」

「大丈夫だ」

 ハネスが言う。


「軍が国民を制圧したら、その時点で政権崩壊だ。だが……このまま放置もしないだろうな」

「じゃあどうすんだよ」

「……おそらく――」


 民衆ががざわつき始め、ハネスが振り向いた。


「――やっぱり来たか」


 その目線の向こうには、黒い軍服の団体が見えた。


「あれ、傭兵部隊じゃないか!?お、俺達を制圧しに来たのか!?」


 民衆が、ヤロスラフに怯え、悪態をつく。

 しかし、誰も彼らを攻撃しようとするものは居なかった。


「おーいお前ら退いてくれ。通るぞ」

 ヤロスラフは平然と民衆の中を突き進んでゆく。

 彼らが城門の前に来ると、ハネスとテツオはイヴァンと出会った。


「イヴァン」

「よぉハネス」


「な、なんでここに!?」

「何って、祭りに参加しに来たんだよ」


「前線はどうした?」

「大丈夫だ。しばらくは停戦してる。前線の数カ所だけだが」

 イヴァンがため息をついた。

「……こんだけ長く前線にいたら、コネも出来る」


「こ、コネ……?」

「お、やっとこの茶番に気づいた人が増えたな」

 テツオの震える声に、イヴァンがニヤリと笑う。


 イヴァンが静かに腰を伸ばし、ぼそりと呟いた。

「本当に、ひでえシナリオの劇だよ」


「本当は、暴動が起きてるからなんとかしろって言われて、急いで来たが……」

 イヴァンが辺りを見回す。

「俺達もなぁ……ムカついてんだよ。雇い主に」


「あいつら、俺達を便利な捨て駒としてしか見てない。戦場に、何の訓練もしてない若い奴を送ってきやがる」

「昨日も、小隊が消えた。

……母国でもある。 だから今までは、目をつむってきた」


 イヴァンが、一呼吸おく。


「いつか戦争が終わると信じてやってきたが……今日、呼ばれてはっきり解った。こいつらじゃ無理だ。戦争を終わらせられない」


 イヴァンは、ギラリとした目つきで城の方を見た。


「もう我慢できねぇ。ここで俺が終わらせる」


 そういったイヴァンの眼光は鋭く、目の奥に炎が宿っていた。


「こんな騒ぎになった火元はテツオ。お前なんだって?」

 イヴァンがテツオに話しかける。

「屋台に飯食いに来た国王に、公の場で説教して、取り押さえられたからって聞いたんだが、マジか?」


「……ああ。ついカッとなって……でも、そこから――」

 テツオが、バツが悪そうに、しどろもどろに口にした。


「革命の火がついちまったってわけだ!」

 イヴァンがガハハと大笑いする。


「まさか、俺達に出来なかったことを、この喧嘩も出来ない異世界人がやっちまうとはなぁ!」

 イヴァンがそういい、テツオの背中をバンバン叩いた。


「しかも、こいつをあのムカつく国王にぶっ放せる日が来るとはなぁ!最高の日だぜ!」

 部下に指示をだすと、群衆の間から――とんでもない大きな大砲が押し出されてきた。


 それを見た群衆が、わぁぁぁぁ!!!と熱狂の渦に巻き込まれる。

 民衆たちの目がギラギラと光輝く。興奮しているようだった。


「お前ら!下がってろ!――ハネス、民衆はお前が指示しろ」

「……くそっ。――お前ら!下がってろ!」

「ハネス、気をつけろ。ここで一般人の血が流れたら、外が動くぞ」

 ハネスが、緊張して姿勢を正す。


 そしてイヴァンが拡声器を持ち、城壁に向かって怒鳴る。


「おい!中の奴!聞け!」

「門を開けろ!さもなければ、傭兵部隊ヤロスラフが城に突入する!10秒以内に開けろ!」


 ヤロスラフという名前を聞き、門の向こう側から、ひぇぇぇぇという声や、カラン!と武器を落とす音が一斉に聞こえる。


「10秒って……相談する時間も無いよな?」

「これが”炎のヤロスラフ”のやり方なんだよ……」


「……よし、お前ら!逃げるやつは追うな!向かってくる奴は片付けろ!

 政治家は殺すなよ!戦争の後始末をさせる!

 狙うは国王!突入する!」



 そしてイヴァンは、静かに手を上げ、一度だけ息を吸った。


「放て!」


 大砲で、どデカい爆音が門に打ち込まれる。

 革命が、始まった。


 * * *


 革命は成功した。

 無事に国王は捉えられ、政権は崩壊した。

 生き残った政治家は、周りの国に和平交渉を申し込んだ。

 紛争は終わるが、一番被害が酷かった地区に、記念碑の銅像を建てる事になった。


 しかし、どの国の政治家も頭を悩ませる事が発生した。


「何を建てれば良い……?」

「でも、建てないって事はできないですよ。歴史と犠牲を軽視したと言われる」

「実行者はイヴァンだけど、彼は駄目だろ。ハネスは?」

「ハネスは元傭兵です。絶対にだめです。揉めます」

「じゃあ、抽象的な像は?」

「その芸術家をどこの国にするかで揉めますよ」

「うう……」


「どこの国にも関係無く、みんな知ってる人はいないのか……」


 記念碑を立てようとして、揉めているという話は、国民にすぐに広まった。


 * * *


「テツオの銅像でいいんじゃない?」

 子ども食堂の時間によく来ている子供が言った。


「はあ?」


「だってテツオ、異世界人だし」

「テツオの料理のこと、みんな知ってるし。うちのママも知ってる」


 確かにな。と別の方向から声がした。

「テツオ本人は知らなくても、子ども食堂は知ってる人多いしな」

「俺、仕事で隣国に居たけど、『国王に抗議し拘束された子ども食堂の異世界人』って一時期有名だったな」


 それを聞いていた客が、噂話をし、尾ひれがついた。


「テツオは隣国で有名らしい」

「テツオの像が立つらしい」


 そして、何処かの声の大きい連中が言い出した。


「記念碑はテツオの像がふさわしい!」


 こうして噂が民間の間に広まり、記念碑の会議ではお互いが渋い顔をした。


「やっぱり、テツオなのか?」


 一同が、お互いの顔を見つめ合う。


「……残念ですが――」


「この戦争に一切関係がなく、

 どの国の民族・宗教・国家を代表せず、

 でも全員がなんとなく知ってて、

 悪意を向けられづらい人――


 今のところ、テツオしか思いつきません」


 それを聞いて、暫定首相の男性は、ため息を付く。


 こうして、国立公園にテツオの像が建つ事になった。


 * * *


「よお、明日。アティナとデートの日だろ?テツオ」

「ああ、レナの事、頼むよ」


 ハネスが、少し気まずそうに口を開く。

「おう……なあ、その……帰って来るの、夜中や翌朝でもいいからな。俺がレナの面倒見るから」

「!?」


「お前……片親って、デートどころか一人になる時間すらも無いんだぞ、そこちゃんと考えろよ」

「そ、そんなこと言われても、よくわかんねーよ」

「俺に考えがある」


 ハネスが、ニヤリと笑った。


 * * *


「おかあさん、きれい!」

「ありがとう。じゃあ行ってくるわねレナ」

「いってらっしゃい!」


 レナが笑うと、アティナとテツオも笑った。

 その光景を、ハネスが静かに眺めている。


「じゃあ行こうか。アティナ」

 テツオが、普段より身綺麗にして、アティナの隣を歩き出した。

 アティナもそれに続き、テツオの隣を歩き出す。


 ドアを閉めると、ハネスが優しくレナに話しかけた。


「……レナ、テツオの事すきか?」

「うん、すきだよ!優しいから!」

「そうかそうか」


 それを聞いて、ハネスはニッコリと微笑んだ。


 * * *


 アティナとテツオは、暫く街の中をぶらぶらと歩く。

 少し遠出をしたり、食事をしたり。


 そして、いつの間にか、二人とも手を繋いで歩いていた。


 長い距離を歩き、日が暮れてきた。

 辺りに街頭が点き始める。


 ふと、テツオが足を止めた。


「あの……アティナ……」

「?」


「実は、ここの近くに……宿、とってあるんだ……」

 テツオの声が、震えていた。


 アティナが驚いて目を見開く。街頭の光が、キラキラと瞳に反射していた。


「いやっ!二人でって事じゃなくて、アティナ一人でもいいんだ、このまま戻ってもいいし」

 テツオは慌てて身振りで大げさに付け加える。


「ハネスが……片親は大変だから、一人になる時間をプレゼントしてもいいって……」

 テツオが、消え入りそうな声で絞り出す。


 暫くお互い沈黙した後、テツオが意を決したように、アティナを真っ直ぐ見据えた。

 そして、アティナに一歩近づく。


「ごめん、誤魔化した。正直に言う。俺、今、すごく、やましい気持ち……」

「そ、そんなはっきり……」


 アティナが恥ずかしがるが、目線は外さなかった。そして、テツオが静かに口を開く。


「あの、アティナ…俺は、君がレナに向ける顔が好きなんだ」

「その顔、もっとこれからも見ててもいいか?」


 アティナの瞳が潤んだ。

 そして、薄い薔薇色の唇から、吐息が漏れる。


「私も、テツオがレナに向けてる顔が好き」


「……髪が薄くても?」

「髪が薄くても」


 アティナが、ふふっと笑う。

 そして、ふわっとテツオの唇に、やわらかい唇が触れた。

 同時に、アティナが手をつなぐ。


「エスコートしてくださる?」


「もちろん」

 テツオが続ける。心臓が張り裂けそうだった。


 二人は宿に向かって歩き出した。

 一瞬だけレナの寝顔が頭の隅を横切ったが――

 ――今は、胸にしまっておくことにした。

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