第6話 秩序の中の秩序
「さて、と。役者は揃ったが、肝心の『舞台』がねえな」 メルクは、港に並ぶオンボロ船を見回しながら、ボリボリと頭を掻いた。
オケアノスを渡る船は、ヤヌス様の「秩序」下にある東の世界では建造が禁じられている。ゆえに、この港にある船は、すべて秩序からこぼれ落ちた者たちが、難破船の残骸を寄せ集めて作った「違法建築」のようなものだった。
「どれもこれも、西の『嵐』どころか、岸壁の波で沈みそうだぜ」 メルクがこぼす。 「あの黒いのが一番マシか。だが、持ち主は『隻眼のゴルド』だ。ヤヌス様よりタチが悪い守銭奴だぜ」
メルクが指差したのは、港で一番大きく、唯一「船」の形を保っている黒い船だった。 「アテナ、お前の『力』で脅して奪えねえか?」 「無駄だ」アテナは槍を肩に担いだまま、首を横に振った。「ゴルドは『力』じゃ動かん。『金』だ。私があの男を殺しても、船の連中は動かない。あの船は金でしか動かない『秩序』で動いている」
「じゃあ、どうするの」私が尋ねると、メルクはニヤリと笑った。 「こういう時は『商談』さ。アテナ、お前さんはそこに立って、俺の『武力』として睨みを利かせとけ。イシュ、お前さんは……そうだな、お前さんのその『異物感』を隠すな。それが一番の『交渉材料』になる」
メルクは私とアテナを見て、ニヤリと笑った。
「行くぜ。ゴルドの懐に“混沌の風”を吹き込んでやろう」
その瞬間、胸の奥に、あの鉄の匂いが微かにざわめいた。




