第十一話:パンタン(前編)
壁のせいで様子を窺えなかったが、中は煌びやかな建物で溢れていた。
「いや~、都会って感じだね~」
ゼイルは感慨深げに言った。
石畳の道の両脇には様々な店が整然と建ち並び、賑わっている。
「素敵・・・」
ついメニイもそれらに目を奪われる。
「まあ、わたしは二度目だけどね・・・」
そう言いながらミリィーも、ウィンドウ越しに店の商品を窺っていた。
ジーニーは三人の反応を見て「ほっほっほ~っ」と笑う。
程なくして一軒の商店の前で馬車は止まる。
すると商店から若い店員らしき人物が四人出てくる。
「おかえりなさい店長!」
彼らは挨拶を済ますと馬車の荷解きを始める。
ジーニーは出てきた四人に手を上げて返事した後、冒険者に向き直る。
「三人ともありがとう、助かったよ。報酬は酒場で受け取ってくれ
また依頼するかもしれないから、その時はよろしく 」
そう言うと忙しそうに店に入っていった。
「じゃあ、報酬を受け取りに行こうか?」
ゼイルは二人を酒場のあった方へ促す。
「そうね・・・それから、食事もしましょうか?」
「良いですね。どんなメニューがあるんだろう?」
ミリィーとメニイは緊張の解けた声で答える。
陽が沈みかけて、街灯に灯がともり始める。
街にはまだ人が多く、”さすが都会だな”とゼイルが感じた時
「おいっ、お前・・・やはりゼイルだな!」
道の端から、紫の長髪を揺らして近づいてきた紫の甲冑の男が、ゼイルの肩を唐突に掴んだ。
多少気を抜いていたとはいえ、ゼイルの不意を突いた長身の男に三人は驚き、注目した。
「君は・・・フォルス!」
フォルスは自身に気付いたゼイルを赤色の目で見据え、質問する。
「ここで何をしている?」
「何って、十八歳になったから旅をしているんだよ」
「師範様でも旅に出られるのか?」
ゼイルとフォルスが問答を始めると、ミリィーが仲裁に入る。
「ちょっと、あなたは一体誰なの?」
するとフォルスが答えた。
「優秀な剣士様・・・ゼイルの同級生だよ」
「っ! ・・・あなたワードチョイスが下手なのね」
ミリィーの表情が少し険悪になって来た時、メニイが穏やかな声で言った。
「すみません。私達、今から食事をしようと話していたところなんです
酒場に向かっていたんですが・・・ 」
するとフォルスは黙って数秒メニイを眺め、「ふんっ・・・」と言うと、三人の歩いてきた方へ去っていった。
三人は酒場に到着すると、テーブル席につく。
皆、黙って座っていたが不意にメニイがゼイルに質問した。
「あのっ、フォルスさんってどんな方なんですか?」
するとゼイルは思い出すようにゆっくり話し始めた。
「彼は学生時代の同級生で、アルバルト流剣術を共に学んでいたんだ
入学時から成績優秀で、魔術も得意だった
俺は剣術が得意だったから、そういう面でライバルだったんだ 」
「じゃあ、そんなに悪い関係じゃなかったんじゃないの?」
ミリィーがゼイルに尋ねる。
「うん、そうだね。剣術の最終試験の前日まではね・・・」
「最終試験ですか?」
「ああ。剣術の成績で拮抗していた俺たちは、卒業前に剣術の主席を決める
ために手合わせをしたんだ
実力は同等だったから、なかなか決着がつかなくてね
でも最後は彼に一太刀いれて、勝てたんだけど・・・ 」
「良い話じゃない。主席と次席で切磋琢磨するなんて」
「ただ、伝統のルールがあってね
主席にはアルバルト流剣術の師範の称号、次席には師範代の称号が与えられ
るんだ
彼の家は剣術の道場を開いているらしくてね
師範の称号を得られなかったことで、俺を恨んでるようなんだ 」
「そういうことだったんですか・・・ってゼイルさん師範なんですか!?」
メニイは驚きで立ち上がった。
「確かにゼイルの動きは並みじゃなものね
・・・フォルスも可哀想だけど、八つ当たりじゃないの!」
ミリィーが少し、フォルスに対して怒ったように言う。
「ありがとうミリィー」
ゼイルは頭を下げる。
するとミリィーはその頭を優しく両腕で包み込むように抱きしめ・・・ようとしたが、メニイに体を抑え込まれる。
「ちょっと何するのよメニイ! ここはお姉さんが慰める所でしょ!」
「いいえ! そんな所はありません!」
二人が体を震わせるほど力を開放して攻防していると、ゼイルが言った。
「二人ともありがとう。でもこれは俺の問題だから・・・
さあ、それより食事にしようよ。お腹すいたでしょ? 」
すると二人は攻防を止め、メニイは席につく。
メニューを選んでいるゼイルを、二人は心配そうに見ていた。
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